三番瀬円卓会議の欠陥を露呈

〜第14回三番瀬「護岸・陸域小委員会」〜

鈴木良雄



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 市川の護岸・海岸線のあり方をめぐる第14回三番瀬「護岸・陸域小委員会」の議論は、三番瀬円卓会議の欠陥(問題点)が象徴的にあらわれていると思う。



●再生の概念やビジョンが議論されていないことによる弊害が露呈
  〜三番瀬海域をどうするかという委員間の考え方や主張は180度ちがったまま〜

 どういうことかというと、三番瀬をどのようなものにするかという「再生」の概念やビジョン(目標)がしっかり議論されていないことによる弊害である。議論がされていないため、共通認識もできていない。そのため、三番瀬海域をどうするかという委員間の考え方や主張は180度ちがったままである。この点は、円卓会議の発足当初から一歩も前進していない。

 円卓会議は、発足してから1年半がすぎた。この9月には再生計画の素案をまとめる予定である。それにむかって今回、浦安、市川、船橋の3つのワーキンググループ(WG)のとりまとめが合意された。
  「市川WGのとりまとめ」では、「現在の海岸線は基本的に動かさない」となっている。しかし、一部の委員は、相変わらず「海に砂を入れて人工海浜をつくってほしい。この点については、私たちは絶対に譲れない」などということを強硬に主張している。
 また、磯部雅彦委員(東京大学大学院教授)も、「今回のイメージ図は、護岸の幅は7メートルしか確保できないということを前提にしたものである。可能性としては、海側に10メートルぐらい出す必要が生じるかもしれない」などという不可思議なことを言っている。
 そうなると、「現在の海岸線は基本的に動かさない」が盛り込まれた市川WGの「とりまとめ」はいったい何なのかということになる。

 一方、傍聴者からは、「猫実川河口付近の海に砂を入れて海浜公園をつくるべきだ。それができないというのなら、なぜできないのかという理由をはっきりさせてほしい」という質問もだされた。しかし、こうした質問にはいっさい答えない。いつものように、言いっぱなし聞きっぱなしである。

 じつは、円卓会議では、猫実川河口域(三番瀬の市川側海域)がどんな海域であるか、とか、そこにどんな生き物が生息しているか、あるいは、そこが三番瀬全体の中でどんな役割を果たしているかなどについて、きちんとした議論はいっさいされていない。したがって、共通認識になっていない。
 さらに、「幕張の浜」や「稲毛の浜」のような人工海浜と三番瀬がどのように違うかも議論されていない。だから、「なぜ、海に砂をいれて人工海浜をつくってはいけないのか」という疑問には答えられないのである。


●猫実川河口域の干潟に踏み入れた委員はわずか

 「千葉の干潟を守る会」などの自然保護団体は、プロジェクトチームをつくり、月1回の割合でこの海域の調査(市民調査)をつづけている。その調査結果をもとに、この海域にアナジャコや稚魚、カニなどたくさんの生き物が生息しており、水質浄化能力も非常に高いことを明らかにしている。

 しかし、驚くべきことに、円卓会議は、この海域の見学や視察を1回もおこなっていない。大潮のときには広大な干潟が現れるのに、ここに足を踏み入れた円卓会議の委員はほんのわずかである。とりわけ、この海域の人工海浜化を主張している委員たちはだれも現地見学をしていない。
 だから、この海域にたくさんの種類の生き物が生息していることを知らない。猫実川河口付近の一部はズブズブの泥干潟であり、そこに足を踏み入れたら腰までのめり込み、身動きできないことも知らない。
 そんなところに大量の砂を盛ったら、砂がどんどん沈下しつづけることは明らかである〈注〉。生き物は全滅である。浄化能力もなくなる。三番瀬はもちろんのこと、東京湾の環境にも大きな影響をおよぼす。それなのに、「子どもたちが海に親しめるように人工砂浜にすべき」などということを言うのである。


  〈注〉たとえば釧路湿原では、あちこちで土砂を盛って農地開発がされたが、どこも沈下しつづけ、
    農地や牧場として使えなくなっている。





●三番瀬の現状や「再生」のビジョンをきちんと議論し、
  共通認識にしてほしい

 昨年末にまとまった円卓会議の「中間報告」には、三番瀬「再生」の概念が次のように書かれている。
 「三番瀬の再生においては、まず埋立計画が行われなくなったことの影響に対する手当を行う。そして、環境が悪化しているところがあれば正していく。これらにより、三番瀬の環境を維持・回復する。さらにそれを地域の向上につなげていく。これを実現するためには、可能な限り客観的データに基づいて、生態系・物質循環・食物網・水循環・流砂系・人間活動などがシステムとしてなめらかに働き、生物多様性が確保されるように努力する。この活動は市民・NGO・漁業者・利用者・行政・研究者などの友好的な協力(パートナーシップ)によって行われるものである。また、同時に、この活動を通じて三番瀬の将来を担う人材育成を行っていく」

 この再生概念は、磯部雅彦委員による提案そのままであり、円卓会議できちんと議論されたものではなかった。したがって、合意もされていない。自然保護団体などはこの点を問題にし、きちんと議論すべきということを再三にわたって要請した。また、「まず埋立計画が行われなくなったことの影響に対する手当を行う」という記述はおかしいと批判している。
 こうしたことから、今後、「再生の基本的な考え方」や「再生の概念」を議論することになった。7月24日に開かれた第15回円卓会議では、このことが確認された。
 遅すぎるという感じもするが、これは絶対に必要なことである。その際、焦点となっている猫実川河口域の泥干潟などをぜひ視察してほしい。そこにどんな生き物がいるかなどをぜひ知ってほしい。そうでないと、机上論になってしまう。


●生き物の視点も欠かさないようにしてほしい
  〜言葉を持たない生き物たちが棲めない地球は、人間も住めない地球になる〜

 たとえば「小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会」の北澤真理子さんは、三番瀬円卓会議「海域小委員会」に寄せた意見のなかで次のように述べている。
 「私は、干潟に棲む言葉を持たない小さな生き物の代わりに皆さまに訴えます。人間から見たらただの汚い泥地でも、野草の茂った草むらでも、そこには数知れない命が息づいています。そしてその命たちは地球上の全ての命の連鎖の底にあり、言葉を持たない生き物たちが棲めない地球は、人間もまた住めない地球になるということを」
 「再生」概念などを検討する際は、こうした生き物の視点も欠かさないようにしてほしい。「言葉を持たない生き物たちが棲めない地球は、人間も住めない地球になる」ということも、しっかり念頭においてほしい。
 そして、今の海域を残すとすれば、「なぜ、海に砂を入れて人工砂浜をつくれないのか」などという疑問にきちんと答えられるようにしてほしい。ようするに、“政治的決着”はやめてほしいということである。

(2003年7月)   









猫実川河口域は浅海域(浅瀬)だが、大潮のときは広大な面積の泥干潟があらわれる。干潟のあちこちで、ゴカイ、スナモグリ、マメコブシガニ、シオフキガイ、ムラサキガイ、ホトトギスガイ、アナジャコなど、たくさんの生き物を発見することができる。円卓会議の委員も、一度ぐらいは視察してほしい。








泥干潟をスコップで掘ると、ゴカイやアナジャコの赤ちゃんなどが何匹もでてくる。ここに数知れない命が息づいていることが実感できる。








水中を網ですくうと、たくさんのアミがかかる。アミは魚の大切なエサとなっており、この海域が魚の大切な成育場となっていることがわかる。








水中にはたくさんの稚魚が泳いでいる。









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