ふなばし三番瀬海浜公園前の干潟は人工干潟ではない

〜ただの埋め戻し〜

三番瀬を守る連絡会 中山敏則

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 三番瀬専門家会議の委員を務めている古川恵太氏(国土交通省国土技術政策総合研究所沿岸海洋新技術研究官)は、2012年7月29日の三番瀬ミーティングにおいて、ふなばし三番瀬海浜公園前の干潟を人工干潟の成功例としてあげた。これは、事実を知らないか、事実をわざとねじまげる主張である。

 第1に、ここは人工干潟ではない。もともと干潟であったところを埋め戻しただけである。
 海浜公園前は、1970年代、もともとあった干潟を浚渫して船橋航路と市川航路を結ぶ「分岐水路」(横引き航路)として利用されていた。ところが波の力が激しく、前面の天然干潟の砂が流れて航路が埋められてしまう。そのため、航路の浚渫をくり返さなければならなかった。また、1974年の台風で、埋め立て地側(公園側)の垂直護岸がいたるところで倒壊した。自然の力にはかなわなかったのだ。そのため、県はついに「分岐水路」を廃止し、1979年から2年をかけてここを埋め戻してしまった。

 その際、公園側をもとの干潟より高く盛り土し、50分の1の勾配で人工海浜をつくった。だが、波の作用で勾配が120分の1になるまでに削られてしまった。この点については、1998年8月20日の『朝日新聞』(千葉版)が次のように記している。
     「かつて公園(船橋海浜公園)に面した遠浅の海を、沖合350メートルにわたって人工海浜とする計画が進められ、大量の土砂が運び込まれた。ところが、数年のうちに土砂は激しい潮の満ち干で削られ、いま残る砂浜はわずかしかない。自然の姿に戻ろうとする三番瀬の力強さの前に、人知はあっけなく敗れた」
 県による人工海浜計画は見事に失敗し、ただの埋め戻しになってしまったのである。このことは、三番瀬においても、人間が思いどおりに人工干潟や人工砂浜をつくることは不可能ということを示している。

 第2は、埋め戻し部分の前面に天然の干潟が残っていたために、埋め戻した箇所にも底生生物が生息し、シギやチドリなどの水鳥が飛来したり潮干狩りも楽しめるようになったことである。つまり、ここは、もともとあった干潟をいちど浚渫し、その後に埋め戻したもので、全国各地で進められている人工干潟とはまったくちがう。

 第3は、埋め戻し部分の干潟に生息している生物は、前面の天然の干潟や浅瀬に比べるとずっと少ない。この点は、たとえば風呂田利夫・東邦大学教授も、「(天然の)三番瀬と比べると生物の種類数、生息量は貧弱である」(『水情報』Vol.18、No.5、1998年)と指摘している。
 埋め戻した干潟の一部は潮干狩り場として利用されている。だが、そのアサリはここで生息したものではなく、他から運んできて撒(ま)いているものである。さらに、人工砂浜(人工海浜)となっている部分には、底生生物はまったく生息していない。

 第4に、人工海浜の部分は、2011年3月11日の東日本大震災で陥没や亀裂がいたるところでみられた。これは、人工砂浜は陥没や亀裂が生じやすいということを実証した。
 たとえば、兵庫県明石市の大蔵海岸では、2001年12月に人工砂浜が陥没し、当時4歳の金月(きんげつ)美帆ちゃんが生き埋めになって死亡した。この事件で大阪高裁は2011年12月2日、国交省と明石市の当時の担当幹部3人に禁錮1年の有罪判決を下した。同高裁の湯川哲嗣裁判長は「陥没は事故以前から繰り返し発生しており、予測は十分可能だった」とした(『千葉日報』2011年12月3日)。
 この陥没事故は人工砂浜の危険性を実証している。三番瀬・猫実川河口域の人工砂浜(人工干潟)化を主張する人たちは、事故が起きた場合に責任を追及されることも覚悟すべきである。
(2012年8月)















1979(昭和54)年当時の船橋側の三番瀬(市川市側から撮影)。
船舶航行中の航路(埋め立て地先。写真の中央)は、
県が干潟(三番瀬)の一部を浚渫してつくった分岐水路である。
分岐水路はその後、市川航路の浚渫土砂で埋めもどされ、
「市民の浜辺」として利用されるようになった。
この浜辺は、前面(写真では右側)に天然の干潟が残っていたために、
底生生物が比較的多く生息するようになった。




現在の船橋側の三番瀬(千葉市側から撮影)。
分岐水路(航路)は1981年に市川航路の浚渫土砂で埋めもどされ、
「市民の浜辺」として利用されるようになった。





2011年3月11日の東日本大震災で人工海浜の一部が陥没



人工海浜では大きな地割れも発生した



『千葉日報』2011年12月3日







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