「人工干潟にすれば昔の海がよみがえる」は

 バカげた主張

鈴木良雄



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 「三番瀬フェスタ2006 PART2」では、司会のK氏が(フェスタ実行委員長。三番瀬再生会議公募委員)がいつもの持論をブチ上げました。


■人工干潟にすれば、昔の海がよみがえる?

 K氏の持論はこうです。

     「三番瀬再生というとき、三番瀬の環境を何年前にもどすのかをはっきりさせるべきだ。それによって対応の仕方が違ってくる。どういう生物の復活をめざすかにもかかわってくる」

 三番瀬再生会議でも、これをなんども主張しています。

 K氏が言いたいのは、
  • 埋め立て前の三番瀬の環境にもどすべきだ。
  • 今の三番瀬は汚くないという意見もあるが、埋め立て前よりはかなり汚くなっている。環境も悪い。

 こういう論理から、猫実川河口域に土砂を入れて人工干潟にすべきと言うのです。
 人工干潟にすれば、きれいな海がよみがえる。また、三番瀬でみられなくなったハマグリなども復活するというわけです。


■“人間の思いどおりに自然をコントロールできる”という驕り

 しかし、これはまったくの屁理屈です。
 埋め立て前の環境にもどすというのなら、すでに埋め立てられたところを海にもどすべきです。しかし、これについては、「“他人(ひと)の家を壊せ”というのと同じだ」と言い、強く反対します。

 このように、埋め立て地はそのままです。また、三番瀬や東京湾に流入する膨大な汚濁負荷には眼をつぶります。

 それなのに、わずかに残された貴重な干潟・浅瀬をつぶして人工干潟をつくることが、どうして「埋め立て前の環境にもどす」ことになるのでしょうか。また、人工干潟をつくれば本当にきれいな海やハマグリなどが復活するのでしょうか。

 こんなことが本当にできると考えていたら、正気の沙汰ではありません。
 そこにあるのは、“人間の思いどおりに自然をコントロールできる”という驕(おご)りです。自然に対する認識が薄っぺらです。


■猫実川河口域は、三番瀬の中でも特異で多様な生態系を形成している

 三番瀬問題の焦点は猫実川河口域(市川側海域)です。ここを保存するか、それとも人工干潟にするかをめぐって対立がつづいています。

 たとえば、加藤倫教さん(カキ礁研究会、NPO藤前干潟を守る会)は、この海域についてこう述べています。(加藤さんは、猫実川河口域の市民調査に愛知県から参加されています)

    《猫実川河口は、実際に見に行けば明らかなように、「ヘドロの海」などではない。とくに河口部の沖にあるカキ礁の周辺部は非常にきれいなと表現してもいいくらいに澄んでいる。
     これまでの約1年半の調査だけでも、確認された生息生物種数は100種類を超えている。千葉県のレッドデータに記載された生物だけでも、ウネナシトマヤガイ、ミズコマツボ、カワグチツボ、ヤマトオサガニ、マメコブシガニの5種類が生息していることが確認された。
     近年「癒し系」生物として人気が広まっているウミウシ類は、一般にはいわゆるきれい南方の海にしかいないと思い込まれているが、そのウミウシ類もメリベウミウシ、クロシタナシウミウシ、ミドリアマモウミウシの3種がこれまでに確認されている。
     また、近縁のブドウガイは無数に生息しており、シマハマツボといった微小貝類とともに堆積したアオサをせっせと食している。また、アオサに産卵もしている。
     岩礁に固着するヒメケハダヒザラガイといった生物も発見されるなど、カキ礁とその周辺からは普通の干潟では考えられないような多種多様な生物が次々と発見されている。
     猫実川河口は、このカキ礁を核として三番瀬のなかでも特異で多様な生態系を形成している。
     カキ礁には、海の熱帯林と形容されるサンゴ礁と同様な生態的な役割が指摘されている。》「真の干潟再生に向けて」2005年8月

 そんな大切な浅瀬をつぶすことは、多様な環境と生物などが微妙なバランスを保ちながら成り立っている三番瀬の生態系を分断し、とてつもない大打撃をあたえることになります。


■人工干潟造成で生物を元のように回復させることは不可能

 最後に、人工干潟造成についてはこんな批判がされています。

    《干潟の生物の多様性は、個々の干潟海岸の存在により維持されているのであり、小規模であっても、今残っている各地の干潟海岸をこわすことのないようにすることが、干潟の生物種を絶滅させない最も重要な保全の道と言える。
     一旦失われた干潟を新たに造る人工干潟の造成が、1973年以降各地で行われており、その総面積は約900ヘクタールに及ぶとも言われている。しかし、干潟そのものは造られても、そこの生物を元のように回復させることは不可能である。あくまでも今ある干潟をなくさず、そしてそこにいる生物への悪影響を与える要因をつくらないようにすることが最重視されるべき保全の方途であろう。》(和田恵次『干潟の自然史』京都大学学術出版会)

 環境庁(現環境省)の環境影響審査室も、千葉県が1999年に発表した猫実川河口域の人工干潟化構想について、こんな批判をしました。

    《県が言うように人が海にアクセスするための改善は必要だが、生態系にとって貴重な浅瀬に人工干潟を造るのは問題がある。》(『朝日新聞』千葉版、1999.6.10)

 貴重な浅瀬をつぶしての人工干潟造成は環境破壊です。

(2006年10月)






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