三番瀬円卓会議と再生会議への疑問

〜埋め立て反対派の取り込みが目的?〜

高木信行



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 「三番瀬再生会議」が発足してから1年がたちました。再生会議は、2002年1月から04年1月まで2年間つづいた「三番瀬円卓会議」(三番瀬再生計画検討会議)の後継組織です。

 円卓会議や再生会議は「県民参加」や「情報公開」をうたい文句にしています。しかし、実態をよくみるといろいろと疑問が生じます。はっきりいって、その本質は、埋め立てや第二湾岸道建設に反対している環境団体をとりこんだり、反対運動を封じ込めるための官製組織ではないか。──このように思います。

 再生会議は、円卓会議以上にそうした性格を強めています。なにしろ、護岸改修で三番瀬海域の絶滅危ぐ種(ウネナシトマヤガイなど)が全滅することがわかっていても、なんの議論もしないのです。円卓会議とは様相がかなりちがっています。

 さらに、円卓会議もそうでしたが、再生会議は焦点となっている現場(三番瀬の猫実川河口域)を一度も見ていません。というか、県は、絶対に現場を見せようとしないのです。
 現場を一度も見ないで再生のあり方などを4年以上も延々と議論する。そんな「市民参加組織」は、世界中で三番瀬だけでしょう。政府機関や地方自治体には無数の審議会や委員会が設置されていますが、現場を一度も見ないのはおそらく三番瀬以外にないはずです。

 以下は、円卓会議を傍聴しつづけた永尾俊彦さん(ルポライター)が、『生活と自治』(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会発行)の2004年3月号に掲載したものの一部です。
 永尾さんは、「(堂本知事は)反対派を取り込むために円卓会議を利用したと批判されても仕方がないのではないだろうか」と書いていますが、まったく同感です。

(2005年12月)   





《『生活と自治』2004年3月号》

反対派取り込みのため? 三番瀬円卓会議

ルポライター 永尾俊彦



 「『干葉モデル』と言ったが、『ジャパンモデル』としてもいいと思う」と千葉県の堂本暁子知事は満面に笑みをたたえ、誇らしげだった。1月22日、東京湾奥部の浦安市、市川市、船橋市の先に広がる1600haほどの干潟と浅海域・三番瀬の再生策を関係者が集まって2年間にわたり話し合ってきた三番瀬再生計画検討会議(円卓会議、岡島成行会長)が、計画案をまとめ、堂本知事に提出した。その内容は、長期目標として海と陸との連続性の回復、生物種や環境の多様性の回復など5つの目標と17項目の具体的施策の提言などだ。

■マスコミは高く評価した円卓会議

 東京湾の干潟は9割以上がつぶされた。「千葉の干潟を守る会」の大浜和子さん(昨年11月死去)は、夫の清さんらとかつて東京湾岸の浦安から富津までの208kmを歩いた。自然海浜はたった十数kmしか残されておらず、公の海は埋め立てられ、公有水面埋立法で企業の私有地にされていた。「こんな手品みたいなことがあっていいのでしょうか」と和子さんはある雑誌に書いている。
 その和子さんたちの抵抗で残された希少な干潟が三番瀬だ。千葉県の補足調査では、13万人分の下水処理場に匹敵する水質浄化能力がある。稚魚の産卵場所であり、今も海苔漁やアサリ漁が営まれる。昨年来、久しぶりのアサリの豊漁にわく。豊饒の海・三番瀬を、ある漁師は「神様みてーな場所」と言った。
 だが1992年、この三番瀬に再び千葉県企業庁の埋め立て計画が持ち上がり、「千葉の干潟を守る会」などの運動や世論の力で当初の740haを101haに縮小させた。そして01年、三番瀬の埋め立て計画の白紙撤回を唯一の具体的公約に掲げて当選したのが堂本暁子・千葉県知事だった。
 翌02年から円卓会議が始まった。そして大型公共事業の計画を「住民参加」と「情報公開」でまとめた点や「海域をこれ以上せばめないこと」が原則とされた点など、確かに画期的な点もある。マスコミは高く評価した。

■名ばかりの「住民参加」

 だが、問題点も多い。まず、再生策を話し合う会議なのに、「再生」とは何か根本的な問題が話し合われず、護岸の形状をどうするかなど土木事業のやり方が中心テーマになった。地元企業代表の委員は、三番瀬の再生とは関係のない後背地の用途変更にしか関心を示さなかった。現在の工業専用地域にマンションも建てられるようにしたい意図を隠さず、「ラブ・イズ・マネー」とうそぶいた。
 会議の最大の焦点は、市川市塩浜2丁目の猫実川河口に土砂を投入して人工干潟をつくる問題だ。「三番瀬は地盤沈下しているので、砂を入れて人工干潟をつくれば生物が棲(す)みやすくなる」との意見が磯部雅彦委員(東大大学院教授・海岸工学)らから出された。会場には、人工干潟を造成するゼネコンの社員もビジネスチャンスを探りに傍聴に来ていた。
 これに対して、自然保護団体の委員らは「人工干潟には成功例もなく、事実上の埋め立てだ」と反対した。自然保護団体は、猫実川河口の市民調査を行い、アナジャコなど希少な生物が棲息し、ここが三番瀬の生態系を支えている事実を明らかにした。参加者の一人は「一面にびっしりとヤマトオサガニがいて、感動しました。あれを見ればここを埋めなきゃとは思えなくなるはず」と語った。
 現場を見て欲しいと自然保護団体は何回も要望したが、円卓会議として現場を見ることはついにないまま、結局土砂投入は認められてしまった。自然保護団体のある人は「もし本当に自然再生のためなら、現場に行くでしょう。円卓会議は三番瀬の再生のための会議じゃない。自然保護団体の妥協を引き出すためのものです」と切り捨てた。
 また、「住民参加」といっても、傍聴者は会議の最後に2〜3人が発言を許され、聞き置かれるだけ。習志野市在住の竹川未喜男さんは、2年間で168回開かれた会議や行事のうち118回を傍聴し、20通の意見書を出したが、「何らかの形でレスポンスがあったのは6回だけでした」と言う。

■骨抜きにされた「情報公開」

 さらに「情報公開」にも問題がある。三番瀬を埋め立てて通す計画だった第二湾岸道路は、埋め立て中止で宙に浮いてしまった。だが三番瀬以外の用地は確保されている。三番瀬再生に重大な影響を与える第二湾岸をどうするのか。多くの人がこの問題を取り上げるべきだと何回も主張したが、岡島会長らが「第二湾岸建設の是非について議論を行う委員構成でない」などとし、議題にしなかった。(中略)
 最終回の円卓会議で、堂本知事は「(円卓会議方式のほうが)差止め訴訟などが起こるよりずっと近道」とその意義を強調した。しかし、核心的な情報を公開しないのでは、反対派を取り込むために円卓会議を利用したと批判されても仕方がないのではないだろうか。








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