三番瀬記事で

『週刊現代』編集部へ抗議

〜千葉の干潟を守る会と千葉県自然保護連合〜




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 『週刊現代』2001年6月23日号は、「東京湾“最後の楽園”からの悲鳴」というタイトルをつけたカラーグラビアで10ページにわたって三番瀬問題をとりあげています。
 このグラビアには、事実と違う箇所や立場・主張に関するねじ曲げがあります。そこで、「千葉の干潟を守る会」と「千葉県自然保護連合」が、記事の訂正や再報道などを求める抗議文を同誌編集長あてに送りました。




 

『週刊現代』編集部への抗議文



2001年6月15日

『週刊現代』編集長 様

千葉の干潟を守る会
代表 大浜  清
千葉県自然保護連合
代表 牛野くみ子


『週刊現代』6月23日号の三番瀬に関する記事について

 私たちは、東京湾にわずかに残された貴重な干潟・浅瀬「三番瀬」を守るために活動している自然保護団体です。
 さて、貴誌の6月23日号は、「東京湾“最後の楽園”からの悲鳴」というタイトルをつけたカラーグラビアで10ページにわたって三番瀬問題をとりあげています。このグラビアには事実と違う箇所がいくつかあり、また立場・主張に関するねじ曲げがありますので、次のとおり指摘させていただきます。
つきましては、事実確認やきちんとした取材をされ、記事の訂正や三番瀬問題の再報道などを検討くださるようお願いします。
 なお、検討結果をご返事くださるよう重ねてお願いします。


1.「一刻の猶予も許されない瀕死の状況」はコケおどし

 最初のページに、「“東京湾最後の楽園”をルポすると、一刻の猶予も許されない瀕死の状況だった」と書かれていますが、これは誇大記事であり、“コケおどし”といわざるをえません。
 三番瀬をじっさいに見てください。三番瀬は、干潟も浅瀬も日本有数の水鳥の生息地となっています。それは、底生生物や魚が豊富だからです。野鳥観察や潮干狩り、釣り、憩いなどでやってくる人もたくさんいます。こうした三番瀬を「瀕死の状況」「死んだ海」などというのは、三番瀬をまったく知らない人か、または、埋め立てたいために意図的に素人をだまそうとするものです。
 東京湾の水質(COD値)は、1980年代以降は安定しています。埋め立てなどの人工的な負荷を加えなければ、東京湾の自然それ自体が持っている回復力・治癒力で東京湾の自然環境は徐々に回復します。
 三番瀬の真の瀕死の危機は、三番瀬埋め立て計画そのものだったのです。それを縮小させ、さらに全面保全を実現させようとしている今になって、「瀕死の状況」を強調する意図はどこにあるのですか? 貴誌の編集意図に抗議し、訂正を要求します。


2.スクラップ置き場前の浜はアサリとは無関係

 船橋海浜公園脇のスクラップ置き場前の写真が2ページにわたって掲載され、そこに「近年、青潮が頻発に発生し、アサリが大量死し、天然モノは壊滅状態になっている」「アサリが死んだ海に残された時間は少ない」などと書かれています。しかし、この場所は、アサリとは関係ない場所です。
 たとえば、市川市行徳漁協などが埋め立ての必要性を強調している市川側の三番瀬(猫実川河口域)には天然干潟が存在し、いまも天然モノのアサリがたくさん採れます。そこは潮干狩りの穴場となっていて、今年も多くの潮干狩りでにぎわっています。記事では、「シーズンなのに、今年は三番瀬で、アサリがまったく採れない」と言う行徳漁協の落合一郎組合長の言い分が紹介されていますが、これは事実とちがっています。
 アサリと関係ない場所の写真を大きく載せ、「アサリが大量死し、天然モノは壊滅状態になっている」などと事実とちがう記事を載せるのは、社会の公器であるマスコミにあるまじきことと言わざるをえません。
 さらにつけくわえれば、「三番瀬や『ラムサール条約登録湿地』の谷津干潟(習志野市)では、毎年夏になると、周辺自治体がアオサ対策に頭を悩ませている」と書かれていますが、これも事実とちがっています。たしかに、完全な閉鎖水域である谷津干潟では、干潟の被覆としてこの数年、年によってアオサの繁茂が問題になっています。しかし、三番瀬では、アオサは昔から繁茂しており、開放水域ですから岸に打ち上げられるだけで、なんら問題ではありません。なぜ、谷津干潟まで持ち出して問題のすりかえをおこなうのですか?


3.青潮の真の発生源を無視

 青潮発生の要因として、行徳漁協の落合組合長が浦安の埋め立て2期工事による水質悪化をあげていることだけを紹介しています。
 しかし、青潮発生の原因はほかにあります。つまり、埋め立て工事で掘られた巨大な土砂採取跡が東京湾のあちこちに放置されていることです。千葉県などが、東京湾岸をかたっぱしから埋め立てる際に海の砂を浚渫(しゅんせつ)したため、深さ30メートルにおよぶ巨大な土砂採取の跡があちこちにできました。この巨大な「穴」が貧酸素水域を生み出し、青潮を発生させていることは、今ではよく知られている事実です。
 一方、落合組合長らが埋め立てを要求している場所は、青潮発生源とは関係ありません。じっさいに、その海域で暮らしている人は、「ここまでは青潮は来ない」と言っています。
 こうしたことにまったくふれず、浦安2期埋め立て工事による潮流の変化と青潮の発生源を短絡させる漁協組合長の言い分だけを載せるのは、読者をあざむくものです。
 なお、私たちは、20年以上も前から東京湾の青潮を問題にし、千葉県などに対して巨大な浚渫跡の埋め戻しなどを要請しています。青潮を問題にするのならば、こうした自然保護団体のとりくみをぜひ取材してほしいものです。


4.なぜ自然保護団体の言い分を載せないのか

 記事は、「三番瀬の豊かな自然を取り戻したいのは周辺漁協の共通の意見だが、埋め立てには、実は賛成だという」と書き、「三番瀬の保全問題では、中立の立場にある市民団体」の鈴木美和子・三番瀬Do会議事務局長が次のように解説していることを紹介しています。
 「漁業環境を改善するためには、人工砂浜の造成などの埋め立てが必要だというのが漁協の考えです。一方、反対派はいかなる工事でも自然に手を加えてはならないとしており、莫大な埋め立て関連費も税金のムダ遣いだと指摘しています」
 ここで問題なのは、なぜ、埋め立てを強く主張している行徳漁協や、「中立の立場にある市民団体」の言い分だけを載せ、埋め立てに反対している自然保護団体の主張の紹介しないのかということです。
 それに、三番瀬Do会議の鈴木事務局長は「反対派はいかなる工事でも自然に手を加えてはならない……」と言っているとのことですが、それは鈴木氏の勝手な一方的主張でしかすぎません。私たち自然保護団体が主張したり、千葉県知事に要望していることは、要約すると次のことです。
 東京湾の干潟・浅瀬は9割以上は埋め立てによって破壊されてしまった。こうしたなかで、わずかに残された貴重な干潟・浅瀬は、野鳥がたくさん飛来し、魚たちのゆりかごとなっている。東京湾の水質浄化にも大きな役割をはたしており、周辺市民の憩いの場などとしても大切な場所となっている。
 したがって、埋め立てないで、そのまま残してほしい。猫実川河口域の生態系は安定しており、決して汚れてはいない。三番瀬の保全策としては、浚渫跡を埋めもどしたり遊休埋め立て地を海にもどすことをまず考えるべきであり、直立護岸の解消策としては、後ろをけずって傾斜にしたり階段護岸にするなどの方法を検討してほしい。 “再生”の名において三番瀬に手を加えることについては、今ある自然の価値を否定することであり、環境の多様性のうえからも慎重にして欲しい。
 これが、私たちの主張や要望です。ですから、「反対派はいかなる工事でも自然に手を加えてはならない……」と言っている鈴木氏の解説は、事実とちがっています。たとえば、私たちは1973年以来、青潮の害と浚渫跡埋めもどしの必要性を、他にさきがけて全国に向けて警告し、要求してきました。こうしたことはご存じないのでしょうか。
 つけくわえれば、私たちは三番瀬埋め立て計画の中止を求める署名集めにとりくんでいますが、現時点で28万人の方が署名してくださり、県知事に提出済みであることをお知らせします。


5.自然豊かな浅瀬の埋め立ては漁業改善につながらない

 また、「漁業環境を改善するためには、人工砂浜の造成などの埋め立てが必要だというのが漁協の考え」とする鈴木美和子氏の「解説」も事実とちがっています。
 行徳漁協は、三番瀬西側の猫実川河口域について、「澱んだ水やヘドロが溜まっている」などと言い、埋め立ての必要性を主張しています。しかし、ここは泥質の底質に適応したさまざまな底生生物が生息し、多様な魚類の生息を支えています。汚いどころか、ハゼやスズキ、フッコなどの魚やカニがたくさん採れので、密漁船が頻繁にやってくるほどなのです。ここはまた、水質浄化でもかなりの貢献をしています。このことは、千葉県による大規模な補足調査でも明らかにされています。
 したがって、ここを埋め立てることは、一連の三番瀬の生態系及び物質循環を分断することであり、三番瀬全域の生態系に重大な影響をおよぼすことになります。諫早干潟をつぶしたために有明海が大打撃を受けたのと同じ結果が心配されます。
 つまり、ここを埋め立てることは漁業改善にはまったくつながらないばかりか、逆に東京湾の漁業に重大な影響をおよぼすのです。このことは、たとえば神奈川県水産総合研究所の工藤孝浩氏が指摘しつづけています。私たちこそ、漁業基盤の全面的保全のために、生物多様性と環境多様性の重要さや、残存する干潟・浅瀬の全面保存をよびかけているのです。


6.行徳漁協の「転業準備金」問題をとりあげてほしい

 行徳漁協は漁業環境改善のために埋め立てが必要と主張していますが、同漁協は、すでに20年前に三番瀬の埋め立てを前提とした「転業準備金」43億円の融資を受けています。
 これは事実上の事前漁業補償です。この融資と「漁業環境の改善」との矛盾を編集長はどう思われるのでしょうか。
 ちなみに、同漁協の組合員が金融機関から融資をうけた43億円の利息は一昨年時点で56億円にふくれあがっていて、それをすべて千葉県が肩代わりしました。県は、今後も利息の肩代わり支出をつづけていく予定です。こんなことは県民として納得できません。それで、自然保護団体のメンバーが、利息支出の返還などを求める訴えを千葉地方裁判所に起こしました。
 私たちのところには、「埋め立てが中止になれば43億円を返還しなければならなくなるので、行徳漁協の幹部は埋め立て実現に必死になっている」「43億円の配分先を漁協幹部は隠しつづけている」「43億円がすべて組合員にわたされたのではなく、かなりの部分はほかに回っている。配分先をぜひ調べてほしい」という声が組合員などから寄せられています。三番瀬問題をとりあげるのなら、こうした問題もぜひふれてほしいものです。



★参考資料






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