自然環境保全ではなく、市民の順応化が目的

〜三番瀬再生事業の「順応的管理」〜

石井伸二


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 県が提案した「三番瀬再生計画(事業計画)素案」では、市川市塩浜護岸改修について次のように書かれています。
    《モニタリング調査結果・他の事例など様々な情報を基に、護岸構造を評価・再検討し、より良い工夫を施して行くこととした「順応的管理」により実施します》
 ようするに、海をつぶす石積み護岸をとりあえず20mとか100mだけつくり、関係者や市民の意見などを聞きながら護岸構造を評価・再検討し、より良い構造にしていく──というものです。


■本来の「順応的管理」と違う

 第14回「三番瀬再生会議」(7月23日)では、「三番瀬を守る署名ネットワーク」の今関さんが、傍聴席からこの記述について発言しました。
 「本来の順応的管理と違う」というのが、今関さんの意見です。こう発言しました。
    《素案に書かれていることは「順応的管理」と違う。「順応的管理」は、護岸の構造を対象にするものではなく、自然環境を対象とするものである。自然環境をこわさないように事業をどうやって進めるかということだ。自然はいちど壊してしまえば元にはもどらない。だから順応的管理という手法が必要になってくる。したがって、塩浜護岸改修事業の項の「順応的管理」については、つぎの内容を明記してほしい。(1)海域をせばめない、(2)生物の多様性や生態系を維持し、自然の回復力を確保するようにする──の2点である。》
 今関さんの発言内容は、まったくの正論です。しかし、「三番瀬円卓会議」や「再生会議」では、傍聴席から出された意見はすべて無視です。たんに聞き置くだけです。


■県がいう「順応的管理」の内容

 ところで、県がいう「順応的管理」は、こういう内容やネライをもっています。つまり、とりあえず20mとか100mの石積み護岸をつくり、
    「こういう構造では市民が海に親しめない」
    「三番瀬の再生にもつながらない」
    「お台場のような人工海浜をつくるべき」
 などという意見をどんどん出させ、結局は、猫実川河口域の人工干潟(人工海浜)につながるような護岸構造にするというものです。


■護岸改修事業は猫実川河口域の人工干潟をにらんでいる

 たとえば、行政と連携を深め、猫実川河口域の人工干潟化をめざしている市民団体のリーダーは、同団体の会報でこう書いています。
    《私たちが三番瀬の環境再生の目標とし、そのシンボルとしてきた「三番瀬の2020年に贈る(パース図)」が示しているとおり、市川市の直立護岸は改修され緩傾斜の護岸に改修され客土・覆砂されて三番瀬の後背湿地となり葦(あし)原になり浜になることに決まった。それは緩やかに三番瀬の元々の海底と繋がり干潟となり、市民の手によってアマモ場が再生されて、たくさんの生物たちが揺藍(ようらん)の地と豊饒(ほうじょう)の海域を呼び戻して行くのだろう》
 護岸改修事業が猫実川河口域の人工干潟をめざしている、と述べているのです。
 じっさいに、県のある幹部も同じような意味のことを明言しています。


■「それは市民の順応的管理だ」

 藤前干潟の埋め立て(人工干潟化)反対運動にかかわったKさんは、この話を聞き、「それは、市民の順応的管理だ」と言いました。
 まさにそのとおりです。

 「順応的管理」は本来、不確実性を伴う対象を取り扱うための考え方やシステムであり、とくに野生生物や生態系の保護管理に用いられる手法です。
 しかし、三番瀬で使われている「順応的管理」は、そうではなく、埋め立てに反対している団体やメンバーなどを順応させるために使われているのです。
 このことは、緊急性が高いから実施するとしながら、崩壊の危険性が高い塩浜1丁目の護岸は放置し、さらに、塩浜2丁目護岸も、今後5年間で900mしか整備しないということに、はっきり示されています。

 ようするに、県の本来のネライは護岸改修そのものではないということです。

(2006年7月) 






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