三番瀬円卓会議を傍聴しての感想

〜ルポライターの永尾俊彦さんが講演〜




トップページにもどります
「ニュース」にもどります
「三番瀬円卓会議」にもどります


 千葉県自然保護連合は(2004年)2月14日、「三番瀬円卓会議を検証する」と題した講演会を船橋市内で開きました。講師はルポライターの永尾俊彦さんです。




講演要旨



三番瀬円卓会議を傍聴しての感想



ルポライター 永尾俊彦




【1】形式的な側面

●情報公開と住民参加という点で画期的

 円卓会議は、報道資料によれば、小委員会やワーキンググループなどを含め、163回開かれた。竹川未喜男さんの集計によれば、関連行事(三番瀬フェスタ、視察会など)を含めると168回にのぼる。
 この円卓会議の意義についてだが、ひとつは、さまざまな立場の人が一堂に会し、2年間分裂せずに会議を続けられたことである。これは、今の公共事業のあり方からすると画期的な出来事だった。たとえば、諫早(長崎県)の干拓事業と比べると雲泥の差である。私は、これを「干拓ファシズム」とよんでいるが、事業者の農水省は聞く耳をまったくもたないというやり方である。市民が何を言っても独善的に自分たちのやり方で進めている。こういうものとくらべると、三番瀬円卓会議はかなり進歩的であった。
 もうひとつの意義は、情報公開と住民参加である。これはいろいろ問題もあったが、建て前としては実行された。これもかなり評価できる点である。


●「開かれているのに閉じている会議」

 次に問題点である。
 第1は、会議があまりにもたくさん開かれすぎて、問題点や全体像が把握しにくかったことである。いったい何が問題になっているのか、そして、どこでどういうことが話しあわれているのかということがわかりにくかった。
 円卓会議は、情報公開で、しかも、だれでも参加できるという「開かれた会議」がうたい文句だった。しかし逆に、会議があまりにもたくさん開かれすぎたために、情報が閉じたものになり、わか りにくいという結果になった。つまり、「開かれているのに閉じている会議」という矛盾がでたのである。


●意思の決定方法が不明確

 第2は、意思の決定方法が非常に不明確ということである。どこで何が決定されているのかがわからなかった。
 私は、円卓会議(親会議)で最終的に決めるのかと思っていた。ところが、親会議で大浜清さんがいろいろ質問すると、「それはすでに小委員会で合意されていること。むしかえしをしないでほしい」と言われる場面がなんどもあった。傍聴していて、そこのところがよくわからなかった。


●情報の核心的部分が公開されず

 第3は、情報公開についても問題がある。議事録の公表が遅い。また、第二湾岸道(第二東京湾岸道路)の検討がかなり進んでいて、多くの人がそれを円卓会議でとりあげるべきだと提起したにもかかわらず、「第二湾岸道を話しあう委員構成になっていない」とか「再生計画案をいいものにすれば、第二湾岸道はつくれなくなる」などという言い方でしりぞけられた。情報のいちばん核心的な部分が公開されなかった。
 また、住民参加も非常に形式的だ。傍聴者の発言は、会議の終わり頃にあわただしく5分ぐらい確保されただけである。それも、2人とか3人ぐらいが発言したらおしまいだ。聞き流すだけに終わっていた。
 それから、意見書を出した方や団体がたくさんあった。また、パブリックコメントにも多くの方が応募された。しかし、これらへの対応はおなざりだった。たとえば、竹川未喜男さんは会議を118回傍聴され、意見書も20回だされた。しかし、それにたいする返事は6回だけだった。


●話し合いではなく政治的な取り引きに

 第4は、これは毎回感じたことだが、会議は3時間も4時間もかかった。しかし、各小委員会や各ワーキンググループからの報告がかなりの時間を占めていて、議論の時間はきわめて少なかった。
 また、話し合いではなく、政治的な取り引きになってしまった。したがって、委員全員の共通認識も深まらなかった。
 これは、対立点を深めさせない司会者のあり方も大きかった。岡島成行会長が司会をされていたが、対立点が浮きあがってくると、「みんなの思いは同じ」とか「考えはみんな同じ」などと言って、あえて対立点をなくしてしまうという運営が目についた。対立点を深め、冷静に議論を深めていって、そこから共通の認識をうみだしていくような運営ではなかったということだ。
 私は、意見の違う人たちが本音の話をつづけることによって、最終的にある程度わかりあえるというか、相互理解が深まるということを期待して2年間、円卓会議に通った。そういう感動的な場面を期待していたが、それはほとんどなかった。
 第5は、たくさんの会議が開かれたのに1回も現場を見なかったことである。これは重大な問題だと感じている。


【2】内容的な側面

●「海域をこれ以上狭めない」は大きな成果

 つぎに内容的な側面についてふれたい。最初は意義についてである。
 円卓会議で2年間議論してきてよかったと思うのは、「海域をこれ以上狭めない」が原則とされたことである。これは、千葉県や東京湾などの埋め立ての歴史を考えたときに、非常に大きな成果だと思う。それは、ここにおられるみなさんが長年の地道な運動をつづけてこられ、さらに、円卓会議を毎回傍聴して意見や批判をだされ、パブリックコメントにも多くの意見をだされたことの反映でもあると思う。
 東京湾では、いまも埋め立てがつづく気配がある。羽田空港の拡張で埋め立てが検討されている。また、JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)が、東京湾の真ん中に「ランドフィル島」をつくるという大規模な埋め立て構想をもちだしている。「海域をこれ以上狭めない」の原則は、こういう埋め立てに歯止めをかけるための一つの証文になる。今後の東京湾開発への橋頭堡を築いたともいえる。
 2点目は、「海と陸との連続性」「水循環」「順応的管理」などの先端的な考え方がとりいれられ。これらが表面的にせよ取り入れられたことも大きな成果だった。


●自然再生とは関係のないテーマが議論の中心

 次は問題点である。
 根本的な問題として感じたのは、再生のための円卓会議だったのに、再生のことはほとんど話しあわれなかったことである。護岸の形状をどうするかとか、後背地の利用計画をどうするかというように、自然再生とは関係のないテーマが話の中心になってしまった。
 大浜さんが、「自然は再生できないのではないか」と提起されたが、「自然は再生できる」ということが前提になってしまった。
 結局、いろいろな対立点があったが、根本的な対立点は次のことだった。「自然は再生できる」というのと、「いやそうではない。再生は自然の力でしかできない。人間はせいぜいそれを手助けしたり、修復するだけ」ということである。
 これは、いいかえれば、陸(人間)の側から考えるのか海(生物)の側から考えるのかということである。人間の利益のために自然を利用するという考え方と、それはもうやめて生物の立場から自然を考えるということの対立である。
 それで、最大の問題は第二湾岸道であった。堂本知事は、一方で第二湾岸道を通すと言いながら、他方では三番瀬を再生すると言っていた。これは大きな矛盾である。第二湾岸道は、渋滞解消や便利さなど、人間の都合で計画されているものである。根本的に問われているのは、こういう利便性や効率化をすすめることをちょっとやめようというのは時代の流れとなっている。そういう流れの延長上に三番瀬の再生がある。
 しかし、そういう根本的な問題をとりあげずに、三番瀬再生を表面的にとりあげている。これはつきつめれば、私たちの考え方や生活のあり方をある程度変えるとか、不便さを我慢するということがいま問われているのではないか。しかし、そういうことはしなくて、高速道路を車に乗って便利な生活をしたい。しかし、海も傍(そば)にあってほしい──そういう人たちとの対立が根本的な対立としてあったのではないか。


●科学的な事実を検証しなかった

 2番目は、科学的な事実を正確に検証しなかったことである。
 円卓会議で最大の対立点となっていたのに猫実川河口域がヘドロ化しているかどうかだった。
 磯部雅彦委員は、円卓会議の牽引車的役割をはたした方である。その磯部委員は昨年、海岸工学論文集で「干潟の温熱・水理環境の評価」と名のいう論文を発表した。その中で「(猫実川河口域は)必ずしも有機物が多いというわけではく、ヘドロ化しているとは言えない」と書いている。
 磯部委員は、千葉県から資料提供を受けてこれを書いた。磯部委員は円卓会議の牽引車であり、猫実川河口域が論議された会議には毎回出席していた。にもかかわらず、自分の研究した論文で書いたことをひとことも発言しなかった。これはマズイことだと思う。
 もし、磯部委員が論文で発表していたことを円卓会議で発表していたら、市民調査の結果もあるので、流れが大きく変わった。土砂投入はくつがえったのでないかと思う。
 それから、竹川未喜男さんが、データにもとづいて、1990年以降、三番瀬は堆積傾向にあるということを何回も主張された。磯部委員は先の論文のなかで、猫実川河口域について「埋立の後も土砂の堆積も進行していることがわかった」とし、竹川さんの主張と同じようなことを書いている。
 しかし、円卓会議では、そういう科学的な事実をつきあわせながら検証するということがあまりなかった。科学的なデータらしきものもたくさんでていたが、核心的な問題についての検証は弱かった。市民調査という重大な結果もだされたのに、それもまともにとりあげられなかった。


●科学的概念を正確に適用しない

 3番目は、科学的概念を正確に適用しなかったということである。
 たとえば、「順応的管理」という言葉である。これは便利は言葉である。自然環境に配慮した雰囲気があるのでよく使われた。しかし、その概念がいったいどういうものか、そして、実際にどういうふうに適用されているのかもほとんど検討されなかった。
 おなじことはラムサール条約についてもいえる。とくに「ワイズユース(賢明な利用)」についての共通認識が深まらなかった。そして最後は、船橋漁協の組合長(円卓会議委員)がラムサール登録に反対するアピール文を同封し、全組合員に登録に賛成か否かの意思表示を求めた。これは組合員に踏み絵を踏ませるものである。
 参考として、各国のラムサール条約登録湿地数をあげさせていただいた。1位はイギリス(英領を含む)で168、2位はオーストラリアで64、3位はスウェーデンとメキシコで51である。日本は13で あり、139カ国のなかで24位である。これをどのように評価するかということだが、日本は昔から「瑞穂(みずほ)の国」とよばれていて、湿地そのものの島国といってもよい。そういう国のわりには登録湿地数がきわめて少ない。とても先進国としていばれる状態ではない。


●第二湾岸道の問題を議論しなかった

 5点目は、第二湾岸道の問題が話しあわれなかったことである。これは最大の問題点である。  自民党県連幹事長の金子和夫県議に話を聞いたら、千葉県の鈴木忠治土木部長が1年ほど前、自民党の三番瀬特別委員会に来て、「第二湾岸は地下方式をとる。それより他に方法はありませんと明 言した」とはっきり言ったという。
 自民党は何に関心があるかというと、道路に最大の関心がある。金子県議も、選挙公約のなかで第二湾岸道を早期に通すということをうたっている。だから、こういう点について聞き違いをするはずがない。しかし、念のために鈴木部長に確認したら、「明言なんてしていません。橋(高架)だと鳥に影響があるとかいろいろ議論がある。地下だと影響ないでしょうと言った」と否定していた。鈴木部長は、「しかし、地下だと莫大な工費の問題もあり、検討中ということです」とも言った。
 かりに第二湾岸道を三番瀬の地下に通すにしても、三番瀬に大きな影響がでるのはわかりきっている。だから、この問題を円卓会議で議論すべきだったのに議論しなかった。
 円卓会議で第二湾岸道の問題をとりあげなったのは、堂本知事の意向があったとみていいと思う。1月22日の記者会見で私は、知事に「三番瀬を通さないで、第二湾岸が建設できるのか」と聞いた。これにたいし、知事は「今は調査段階である。今後、次のことが提起されてくると思う」と答えた。
 しかし、どうもそうではなさそうである。知事と金子県議のどっちが信憑性が強いかというと、金子県議の言っていることが強いと思う。


●学者・研究者とマスコミの姿勢

 今回、学者のあり方も大きな問題点としてあったのではないか。
 磯部雅彦委員が円卓会議の全体を仕切り、再生計画案は磯部委員の考え方どおりにまとめられたのではないかと思っている。その磯部氏は、紳士的な方で対応も冷静である。だから、2年間空中分解せずにまとまったと評価する人も多い。しかし、その反面で、前述のように、肝心なことを言わないなどの問題点もあったと思っている。
 そのほかの研究者についていえば、これらの方々がどこから給料をもらっているかということが微妙に反映していたのではないか。最後のところで環境保護団体に加勢して論陣をはるということがみられなかった。
 マスコミの問題も感じた。マスコミは、自然保護運動について冷たかったのではないか。市民調査はほとんどとりあげなかった。その反面で、行政寄りのNPOはもてはやすという傾向があるように思った。
 それから、市民運動も今回はっきり分化した。行政寄りの団体と行政と距離をおく団体にはっきり分かれた。


●堂本知事はラムサール登録に消極的
  〜「私は生物多様性の条約の方が専門で、生物学が専門ではない」とも回答〜

 最後の円卓会議で堂本知事の記者会見がおこなわれた。私が「知事はラムサール条約登録のため、漁協を指導するつもりはないか」と質問したら、知事は、「政治的(に動くべき事柄)だと思う。説得して聞いてくれればいいが、こわれてしまえば何にもならない。三番瀬の再生をやる中で漁業者がどう変わるかだ」と答えた。これは非常に消極的な姿勢である。
 これを聞いて、知事は政治的な配慮をすごく気にする人だなと思った。政治的に動くことを考えている人だということである。
 次に、「知事は生物多様性の専門家だが、猫実川河口に土砂を投入して生物が生き埋めにされることをどう考えるのか」と聞いた。これにたいし知事は、「私は生物多様性の条約の方が専門で、生物学が専門ではない」と答えた。


●会議を政治的な駆け引きや交渉事ととらえる

 次に行政の問題点である。
 三番瀬円卓会議について、ある方は「自然保護団体から妥協を引き出すための会議であり、成田空港の円卓会議と同じ」と話された。これを聞いて、私もなるほどそのとおりだなと思った。
 会議が政治的な駆け引きや交渉事というようにとられられていた。足して2で割って妥協点を探すということである。話し合いをつづけてお互いの認識を深めていくというものではなかった。


●自民党は三番瀬に関心なし。第二湾岸道に関心

 自民党のことだが、私が金子県議に話を聞いたのは再生計画案が発表されてから1週間ぐらいたっていた。しかし、金子県議は再生計画案を読んでいなかった。「読むつもりはない」とも話した。
 はっきりいって、どうでもよいという感じだった。しかし、第二湾岸道には関心があるということだったので、それはそうなのかなと思った。だから、あういうふうに円卓会議もできたのではないか。
 そのことを堂本知事も喜んでいる。円卓会議の最終会議のあと、知事は円卓会議について「千葉モデルではなく、ジャパンモデル」と誇らしげに語り、非常に喜んでいた。円卓会議のまとめは、堂本知事の意図どおりになったのではないかと思う。


●今後の自然保護運動の課題

 最後に、以上のことをふまえて私が感じているのは、今後の自然保護運動の課題である。
 環境を守る運動は、今までは利権政治や開発行政とのたたかいが中心だった。しかし、自然再生推進法が施行されてからは、それに加えて、一見、環境保護を示すジェスチャーを示しながら、じつは開発行政を助けるというニセモノの政治家や学者、市民団体との闘いが大きな課題になってくるのではないかと考えている。

(文責・千葉県自然保護連合事務局)




★関連ページ

このページの頭にもどります
「ニュース」にもどります
「三番瀬円卓会議」にもどります

トップページ | 概 要 | ニュース | 主張・報告 | 行政訴訟 | 資 料 |
干潟を守る会 | 自然保護連合 | リンク集 |