★三番瀬埋め立て計画見直しで朝日新聞が社説


埋め立て思想に決別を

〜1999年10月25日付け朝日新聞の社説〜




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 東京湾の最奥部に残された干潟、三番瀬の埋め立て計画の見直しが、新たな段階を迎えている。
 千葉県はことし6月、埋め立て面積を当初計画の約7分の1、101ヘクタールに縮小する改定案を計画策定懇談会に示した。
 この懇談会は、県みずから埋め立て事業を見直すために設けた検討会である。
 それなのに、7分の1縮小案にも異論が相次ぎ、県は再検討を求められた。
 次回の懇談会で、千葉県は
▽101ヘクタールを埋め立てる必要性
▽埋め立てが水鳥や魚など干潟の環境へ与える影響
▽60ヘクタール以上にのぼる人工海浜を造成することの是非
▽干潟を横切ってつくる高速道路(第二湾岸)の建設方式
などについて、改めて見解を示すことになっている。
 環境庁や自然保護団体からの要望を受けて、県はこのうちの人工海浜については「圧縮」し、高速道路については「地下化」によって理解を得ようとしている。
 自然の干潟をつぶして人工の海浜を造成しようとする県の計画は、そもそも説得力に乏しい。市民が遊べるように、垂直堤防を壊して人工海浜をつくるのはいいとしても、最小限にとどめるべきだ。
 高速道絡も、水鳥の保護を考えれば、当初の高架式より地下式にした方が影響は少ない。景観上も優れている。
 そうした点は評価できるが、根本的な疑問がぬぐえない。県が埋め立て自体の必要性について、従来の主張をいささかも譲らないことだ。
 バナナのたたき売りよろしく、当初の計画を順次縮小していって、妥協点を探ろうとしているように見えてならない。
 「まず埋め立てありき」という県の計画自体が時代にそぐわなくなった。それを全面的に見直すのが先決ではないか。
 6月に示した縮小案では、道路の建設を既定事実とし、その用地の陸側を埋め立てる計画になっていた。
 新しい埋め立て地は、都市再開発で追い出された工場を受け入れたり、緑地公園を整備したりするのに利用するという。
 干潟の価値についての知識が乏しい時代の発想を、そのまま引きずっている。
 干潟は、汚くて無駄な土地ではない。水鳥の休憩地であり、えさ場である。ヘドロ状にみえるところも魚の産卵、幼魚の生育地として貴重な泥質干潟である。
 現地視察した清水嘉与子環境庁長官はヘドロ状の部分について、いったん人工干潟の造成に理解を示し、あとで発言を撤回した。しつかりしてもらわなくては因る。
 三番瀬の水質浄化能力が13万人分の下水処理場に匹敵することも、県の委員会が実施した調査で明らかになっている。
 埋め立て問題を見直す県の作業は遅れている。急ぐことはない。この際、白紙から検討し直したらどうか。
 これまでの県の検討手順には評価すべき点もある。独自に設置した「千葉県環境会議」の提言を受け入れ、環境への影響について3年の年月と6億円の費用をかけて実施した調査結果は、貴重な資料だ。
 その効果もあって、埋め立てて工場や人工的な公園をつくるより、豊かな生態系をはぐくむ干潟を大切に守る方が、より価値があると人々は考えるようになった。
 高度成長期の埋め立て思想と決別し、三番瀬の保全を基本とした新しい計画づくりに着手すべきときである。
 重ねて沼田武知事の決断を求めたい。




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