公共事業のあり方を問う

〜国際シンポジウム「21世紀の公共事業のあり方を求めて」〜


「市民が望む公共事業ナイト〜山下弘文氏を偲んで」も同時開催




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 2000年12月17日、4人の海外講師を招いて国際シンポジウム「21世紀の公共事業のあり方を求めて」と「長良川DAY2000 in 東京」が東京の九段会館で開かれました。主催は、「公共事業チェックを求めるNGOの会」と「長良川河口堰建設をやめさせる市民会議」です。千葉からも、「千葉の干潟を守る会」や「千葉県自然保護連合」「三番瀬を守る署名ネットワーク」の関係者など、たくさんの自然保護・公共事業関係者が参加しました。
 以下は、シンポジウムの概要です。








第1部 国際シンポジウム「21世紀の公共事業のあり方を求めて」



 第1部は、「21世紀の公共事業のあり方を求めて」と題する国際シンポジウム。オーストリア、オランダ、アメリカからの4人の海外ゲスト講師によって、それぞれの国や地域で進められている河川再生や湿地復元のとりくみが報告された。4人の講演のあとは、ソプラノ歌手の歌枕直美さんによるミニコンサート。歌枕さんは、「日本の豊かな自然を万葉集にきく」というテーマで、日本の豊かな自然を歌ってくれた。
 つづいて、アウトドアライターの天野礼子さんによる基調講演「日本の山河の現状」があり、そのあと、鳩山由起夫氏(民主党代表)と筑紫哲也氏(ジャーナリスト)、五十嵐敬喜氏(法政大学教授)による鼎談「21世紀の公共事業」がおこなわれた。



■海外ゲストの講演


●「ヨーロッパはなぜ川をよみがえらせるのか」
  〜オーストラリア在住のカール・アレクサンダー・ジンク氏〜

写真:カール・アレクサンダー・ジンク氏

 最初の講演は、カール・アレクサンダー・ジンク氏による「ヨーロッパはなぜ川をよみがえらせるのか」。オーストリアに在住し、環境管理コンサルタントをしているジンク氏は、ヨーロッパ各地で河川をよみがえらせるとりくみが急ピッチで進められていることを話し、その一例として「ライン・ドナウ河川再生プロジェクト」について報告した。
 蛇行していたドナウ川では、つぎつぎと直線化する事業が進められたが、この直線化によって川の生態系は大きく破壊された。こうしたことを反省し、いま、ドナウ川ではかつての蛇行部分を復元するとりくみが各地で進められている。このことによって、川の生態系や流域の自然はよみがえりつつあり、また、浄化力も向上しつつある。こうした河川再生事業をジンク氏は、“死んだ川”を“生き生きとした川”へよみがえらせることだと強調した。
 このように、オーストリアでは、手つかずの川は保存して管理する一方、生態系がダメになった川は再生するとりくみが急ピッチで進められていることを、数多くのスライド写真を用いて話してくれた。そして、これまでヨーロッパ各国ですすめられてきた河川改修は、「自然を破壊するなど時代錯誤的なもので、莫大なカネをかけたが効果のうすいムダなものであった」と強調した。


●「オランダの河口堰を開けるわけ」
  〜オランダ政府高官のスタン・カークホフス氏〜

写真:スタン・カークホフス氏

 2番目の講演は、オランダ政府高官のスタン・カークホフス氏による「オランダの河口堰を開けるわけ」。カークホフス氏は、オランダ政府の交通公共事業水管理省を代表し、ライン川河口堰が2005年に開放されることになったいきさつを話してくれた。
 1800人が死亡するという大洪水の被害をきっかけにして1970年、ライン川にハーリングフリート水門が建設された。しかし、この河口堰は、年を追うごとに川の生態系を悪化させた。海水域と淡水域が完全に分断され、河口堰によって淡水化された河川水は、水質が非常に悪化した。河口には重金属を含むヘドロが厚く堆積し、河口部の自然環境は大きく悪化した。
 オランダ政府はこれらを深刻に受けとめ、河口部の自然生態系を回復させるためのプロジェクトを立ち上げた。カークホフ氏はこのプロジェクトに関わり、潮の干満に合わせて河口堰のゲート操作を行い、汽水域(海水と淡水との混合によって生じる低塩分の海水域)を回復させる技術が開発された。
 そして、ハーリングフリート水門のゲートが2005年に開放されることになった。しかし、ゲートの運用方法が根本的に変わることによって利水者などが影響を受けるため、プロジェクトの推進・実行にあたっては、徹底した情報公開が行われているという。


●ライン川の開発によって失われた自然の価値の試算
  〜オランダのカーステン・シュイット氏〜

写真:カーステン・シュイット氏

 3番目は、カーステン・シュイット氏による「ライン川の開発によって失われた自然の価値の試算」。シュイット氏は、オランダ・ロッテルダムのエラスムス大学で自然環境の経済的価値を研究している女性経済学者である。
 シュイット氏は最初に、「世界的に水危機が進行する中で、川を改修しつくすような、これまでの河川改修は見直しが強くさけばれている」と強調した。そして、従来型の河川改修について、「川の生態系の価値がコストのなかに含まれていないか、非常に低く見積もられている。その結果、生態系を消失させ、人工物でおきかえている」「改修や開発の経済的効果は大々的に宣伝されるが、自然への打撃は過小評価されている。そうした莫大なコストは国民が払っている」などと述べた。
 具体的にライン川の実例をあげ、ライン川は河川改修がすすんで人工の川となってしまい、生態系が破壊されたことや、改修によってかえって大洪水の危険性が高まったことなどを話した。そして、「私たちは、経済成長や河川改修そのものがよくなかったと言うのではない」としたうえで、「経済成長のためにこんなに自然を破壊してよかったのか」という疑問や反省が強く叫ばれていることをあげ、開発によって失われたものをとりもどそうというとりくみがライン川をめぐって進められていることを話してくれた。
 そして最後に、開発などを進める場合は、「計画の中に生態系消失のコストをきちんととりいれるべきだ」と強調した。


●アメリカはなぜダムを撤去するのか
  〜アメリカのオーエン・ラマーズ氏〜

写真:オーエン・ラマーズ氏

 海外ゲスト講演の最後は、アメリカのオーエン・ラマーズ氏による「アメリカはなぜダムを撤去するのか」。ラマーズ氏は、世界最大の河川保護団体である国際河川ネットワークの副代表として、世界中の主要なダムの建設中止や撤去運動を支援しつづけている。
 ラマーズ氏は、アメリカにおいてダムがつぎつぎと撤去されていることを、スライド写真を使ってくわしく話してくれた。アメリカでは巨大なダムが無数につくられたが、いまは“ダムの時代は終わった”が合言葉となっている。理由のひとつは、ダムの安全性の問題である。ダムの寿命は50年といわれており、それを超えると、老化がすすんでくずれる危険性がでてくる。その対策を検討した結果、改修(補修)よりも撤去した方が安くつくことが分かった。それで、各地でダムの撤去が進められいる。ラマーズ氏の同僚は77のダムの撤去にかかわったという。
 アメリカでは、貯水や治水の目的でダムがつくられたものの、長い間に土砂の堆積がすすみ、土砂で埋まりつつあるダムが少なくないという。ダムを撤去すれば、こうした堆積土砂が河口に運ばれ、それを活用したり、養浜に役立てることができ、経済的効果は大きいという。また、自然の再生にも大きく役立っているという。
 たとえばグレンキャニオンダムはアメリカで11番目に大きなダムだが、河川水量を減少させ、河川の水質や生態系に大きな被害を与えている。このダムも、生態系を再生するためには撤去しかないということで撤去することが決まったという。
 このダムを調査した結果、ダム建設によって貯水量の4倍の水が失われていることが分かったという。それは、ダム湖からかなりの水が蒸発したり、下流の川ではなく他の部分へ水が流出していからだという。そして、大雨などでダム湖への流入量が多いときには、ダム崩壊の危険性も高まっているという。
 ラマーズ氏は最後に、「アメリカだけでなく、世界的にダム撤去の動きがでている」と述べ、「自然保全に力をいれることは当たり前の状況になっている」と強調した。





写真:ソプラノ歌手の歌枕直美さん






■基調講演

  天野礼子「日本の山河の現状」


写真:天野礼子氏

 天野氏は初めに、「日本は四方を海に囲まれた自然豊かな島国だが、この半世紀で“世界でいちばん見苦しい島国”になりつつある」と述べ、自然環境破壊のすさまじさを強調した。
 島国でないオランダの治水方式をそのまま導入し、いたるところにどんどんダムをつくり、河川改修を進めているのは大間違いである。河川をまっすぐに改修し、堤防を高くし、その水をダムで受けとめるという方式を進めてきたが、この方式は治水に役立たないばかりか、洪水に弱い国土にしてしまった。たとえば、大井川ではダムが14もつくられたため、川は“河原砂漠”となってしまっている。逆に、大雨時には洪水被害が生じやすくなっている。河口部の海岸をみると、ダムによって土砂が運ばれなくなったために、海岸線は250メートルも消失し、テトラポットだらけになってしまった。こんなひどい状態になっているのに、建設省は今後もダムをつくりつづけようとしている−−などと述べた。
 そして最後に、「20世紀に、私たちは日本の自然を後ろのないところまで追いつめた。4人の海外ゲストが話してくれたように、ほかの先進国は猛スピードの開発を反省し、方向転換をはじめている。しかし、日本は、そうした流れに逆行することを相変わらずやっている」と話し、公共事業のあり方を大きく転換させることの重要性を強調した。





■鼎談「21世紀の公共事業」
     鳩山由起夫氏(民主党代表)      筑紫哲也氏(ジャーナリスト)      五十嵐敬喜氏(法政大学教授)            写真:鼎談中の三氏
 筑紫氏の進行で、21世紀における公共事業のあり方について議論がすすんだ。 以下は、議論の内容をピックアップしたものである。 ・筑紫……4人の海外ゲストの話を聞いて、つぎの3点を感じた。      (1) ダムや河川などにかんする日本の議論はいかに知的レベルが低        いものであるか。      (2) 公共事業の計画にあたって、日本はコスト意識が低い。      (3) 根本的な問題として、日本は民主主義が非常に遅れている。 ・五十嵐…筑紫氏の感想については同感。しかし、自民党の亀井静香氏が公共      事業に関する神話をくずしたことはいいことだと思う。 ・鳩山……公共事業の見直しを強く叫んでいるので、地元選挙区の支持者など      から「それをあまり言わないでくれ」と言われている。過疎地など      に行くと、道路や河川改修を必要としている所もあると思っている。 ・五十嵐…日本はこれ以上、道路や橋、河川改修などは必要ないのではないか。      たとえば河川改修して大洪水がおきても、行政は絶対に責任をとら      ない。実際には、「ダムが欲しい」のではなく、「ダムや橋、河川      改修の工事が欲しい」となっている。日本は、公共事業に依存する      体質になってしまった。公共事業は麻薬のようになっている。 ・筑紫……そのとおりで、麻薬の量を増やしつづけたのが、この10年だった。 ・鳩山……地元選挙区に行くと、「仕事が欲しいから、公共事業を悪く言わな      いでくれ」と言われる。しかし、ダムができたために大洪水がおき      るようになったという側面もある。今後とも、公共事業の見直しは      求めていきたい。 ・筑紫……ヨーロッパのように、自然を復元する環境再生事業のほうが、雇用      確保、自然回復などの点で効果がある。公共事業は、こういう方向      へむかうべきだ。たとえば、川の三面張りをはがしてより自然に近      い護岸につくりかえる工事や、川をもとの蛇行にもどす工事をすす      めることによって、建設業界も活気を取り戻すことができるのでは      ないか。 ・五十嵐…事業の計画内容を明らかにし、どの方法がよいのかを選択するシス      テムが日本にはない。システムを選択できるようにすることが必要      だ。 ・鳩山……吉野川河口堰にみられるように、国民の意識は変わりつつある。 ・筑紫……諫早湾閉め切りの映像によって多くの国民がショックを受けた。こ      の映像は国民の意識を変えた。      日本では、政権交替が必要になっている。政権を交替させて、その      政権がダメだったら、さらに交替させるようにしたらいい。 ・鳩山……民主党の諮問機関である「公共事業を国民の手に取り戻す委員会」      が意見書として発表した「緑のダム構想」は、たいへん好評だ。北      海道の人たちも「この構想はいいぞ!」と言っている。こうした構      想を大きく育ててほしい。



第2部  “長良川DAY2000” in 東京
「市民が望む公共事業ナイト」



 第2部は、この年(2000年)の7月に逝去された諫早緊急救済本部代表の山下弘文氏を偲んで「“長良川DAY2000”in 東京〜市民が望む公共事業ナイト」がおこなわた。
 まず、沖縄大学の宇井純教授が「21世紀をどういう世紀にするのか」というテーマで基調講演したあと、山下氏の偉大な功績などを天野礼子氏が紹介し、山下氏夫人の山下八千代氏に花束が贈呈された。
 そのあと、自然を破壊するムダな公共事業をやめさせるために運動している全国各地の市民団体からリレー報告がされた。





■基調講演

  宇井純「21世紀をどういう世紀にするのか」


写真:宇井 純氏

 反公害闘争の先駆者である宇井純・沖縄大学教授は、具体的に下水道をとりあげ、日本の公共事業がいかに環境を破壊し、ムダの多いものであるかを話した。
 かつて日本は、経済成長にばかり夢中になり、公害患者に対しては非常に冷淡だった。労働者を酷使し、自然を破壊し、農村漁民を工場にかりたて、“追いつけ追い越せ”でやってきたが、国民生活はいっこうに豊かになっていない。また、下水道にみられるように、“大きいことはいいことだ”でやってきた。
 いま、日本の行方やあり方を考えると、ずっと間違った道を歩んできたと思う。日本の環境問題についていえば、70年代後半からの20年間は“失われた20年間”であったと考えている。
 アメリカのように基本的なことを教える教科書に相当するものが、日本にはない。たとえば、下水道についていえば、その実態や問題点などを国民は知ったり、考えることができない。だから、役人が勝手に好き放題にやっている。下水道工事は、とんでもない伏魔殿となっていて、金をいくらかけても国民生活には役に立たないものになっている。いまの下水道は、工事が進めば進むほど自治体財政を圧迫し、住民は負担がどんどん増すことになっている。逆に、工事の進み具合をストップしたり、規模を縮小したり、小規模なものに転換すれば、自治体が喜ぶようになっている。





写真:山下八千代さん






■リレー報告


・諫早湾緊急救済本部(長崎県諌早市)
・長良川河口堰建設をやめさせる市民会議(岐阜市)
・豊かな汽水域を後世に活かす市民会議(島根県松江市)
・吉野川第十堰の未来をつくるみんなの会(徳島県)
・川辺川利水訴訟原告団(熊本県相良村)
・富山湾刺し網部会連合体 入善・朝日刺し網部会(富山県入善町)
・紀伊丹生川ダム建設を考える会(和歌山県橋本市)
・思川開発事業を考える流域の会(栃木県小山市)
・日本湿地ネットワーク(東京都日野市)
・泡瀬の干潟で遊ぶ会(沖縄市)
・千葉の干潟を守る会(千葉県)
・博多湾の豊かな未来を伝える市民の会(福岡市)
・江戸前の海十六万坪(有明)を守る会(東京都)
・空港に反対する榛原オオタカの森トラストの会(静岡県榛原町)
・空港はいらない静岡県民の会(静岡市)
・公共事業に反対する立ち木トラスト全国ネットワーク・
 全国自然環境保護連盟(長野県軽井沢町)
・石垣島・白保に空港をつくらせない大阪の会(大阪市)
・群馬県自然保護団体協議会(群馬県)
・久留米ゴミゼロシンポジウム事務局(福岡県久留米市)
・鶴岡水道住民投票の会(山形県鶴岡市)


★「博多湾の豊かな未来を伝える市民の会」の脇義重氏
 脇氏は、福岡市の博多湾に計画されている人工島建設に反対し、和白干潟を保全するために運動している「市民の会」のとりくみなどを報告した。
★「豊かな汽水域を後世に活かす市民会議」の保母武彦氏
 保母氏は、国営中海土地改良事業(通称・中海干拓事業)を中止にさせた運動や、中海の保全をめぐる今後の課題などについて報告した。なお、同事業を中止させたことから、天野礼子氏から花束を贈呈された。
★「思川開発事業を考える流域の会」の藤原信氏
 藤原氏は、思川開発事業と一体的に運用される予定の「東大芦川ダム」計画の問題点や、ダム反対運動などついて報告した。
★「日本湿地ネットワーク」の辻淳夫氏
 辻氏は、湿地を守るために、諫早湾干拓事業や三番瀬埋め立て計画、吉野川河口堰計画など、全国各地の公共事業の見直しを求めて活動している「日本湿地ネットワーク」のとりくみなどを報告した。
 なお、辻氏は「藤前干潟を守る会」の代表もしており、同干潟の埋め立て計画を中止させたことから、天野礼子氏から花束を贈呈された。
★「泡瀬の干潟で遊ぶ会」のメンバー
 「泡瀬の干潟で遊ぶ会」のメンバーは、沖縄市の泡瀬干潟が埋め立てによってつぶされようとしている問題や干潟保全のとりくみを報告した。
★「千葉の干潟を守る会」の大浜清氏
 「千葉の干潟を守る会代表」の大浜清氏は、千葉県が東京湾三番瀬に計画している埋め立て計画の問題点や反対運動のとりくみなどを報告した。
★「群馬県自然保護団体協議会」の飯塚忠志氏
 飯塚氏は、群馬県の吾妻渓谷に計画されている八ッ場(やんば)ダムが今ではまったく無用となっていることや、建設中止を求める運動について報告した。


●フィナーレ
 午後1時半から7時間におよんだ国際シンポジウムと集会の最後は、海外ゲストやパネラー、リレー報告をした市民団体などがステージに並び、今回の催しの成果をふまえ、公共事業の根本的見直しをめざしてさらに奮闘することをちかいあった。
●資料コーナー
 資料コーナーは、さまざまな団体がもちよった書籍や資料などを買い求める人でにぎわった。写真は、三番瀬保全運動をすすめている「千葉の干潟を守る会」と「三番瀬を守る署名ネットワーク」の販売・署名コーナー。



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