NPOの行政下請け化が加速

〜田中弥生氏が警鐘〜

佐藤行雄



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 以前、「NPOの行政下請け化を憂う」でこんなことを書きました。
 NPO法人が全国でも千葉県でも急増しているが、(1)NPOの急増は市民活動の高揚につながっていない。(2)行政に資金援助を求めるNPOが多い。(3)行政の環境破壊に手を貸す環境NPOも増えている──というものです。
 同じようなことを、田中弥生氏(大学評価・学位授与機構 助教授)も指摘しています。自著『NPOが自立する日─行政の下請け化に未来はない』(日本評論社)と、『環境会議』(2007年春号、宣伝会議発行)に掲載された「NPOが下請け化から抜け出すために」という一文です。
 田中氏が書いていることを紹介するとこうです。


◎行政への依存が目的化
    《日本のNPOの何かが違う、という感じを抱くようになったのは、今から3年前の春のことである。
    (特)言論NPOが主催する「ニッポンNPOは民の担い手になりうるか」というフォーラムにパネリストとして参加した。小泉政権以降、急速に行革、規制緩和が進められていたが、新しい社会の中で、NPOは公の部門を担う真に民の主役になれるのか、という問いかけが議論の主題であった。
     ところが、会場から出された質問はそうした意思を感じさせるものではなかった。ほとんどの関心は行政からの委託金の話であり、「とても安い人件費単価で行政から委託を引き受けているのだが、不満である」というものばかりだった。
     私は「そうした委託は断るべし」と答えながら、何かが違うと感じた。主催者が提起したこのテーマこそ、私の問題意識そのものだったが、NPO関係者から発せられた質問はむしろ逆さまで、公の担い手として自律するよりも行政への依存だけが目的化しているような感じを否めなかった。
     実は、この違和感が今問われているNPOの変容ぶりの予兆であり、そのときから、とげのように私の胸に引っかかるようになった。》(『NPOが自立する日』)

◎自主事業の縮小
    《結果を分析しながら、私の中のNPO像はどんどん崩れていった。公的資金への依存度が異常に高いのである。
     しかもその活動内容に着目すると、NPO自体がみずから公を担うというよりも、事実上行政の下請けになっていると思えたからである。収入の8割以上、あるいは9割、100%というものもある。しかも、それは補助金ではなく行政からの業務委託が大部分を占めている。他方、寄付金の集まり方が少ない。というよりも少なすぎる。年間30万円以下が全体の五割近かった。公的資金への依存度の高いものを公的資金型とすれば、寄付や会費など民間資金の比率が高いものは民間資金型である。これらの分布を調べてみたが、民間資金型がわずかであるのに対して、公的資金型の数はかなり多い。しかも、事業の大半を委託に頼り、寄付や会費を集めず、自主事業を行なわなくなったNPOの姿をどう捉えたらよいのか。》(『NPOが自立する日』)

◎行政からの受託を望む理由
    《なぜNPOは行政からの委託を望むのか。第一に、NPOの活動が行政の業務分野に近いことが挙げられる。NPOによる高齢者や障害者へのサービス活動の多くは、行政では対応できないニーズについて独自の工夫でカバーしてきたものである。行政のできないところを補填しているのであれば、行政予算を使うのが適当であるという考え方もあろう。
     また、行政からの委託事業を行なうことで、「御墨付き効果」や安心感を得られるのではないだろうか。アンケート結果でも、市民への安心感が指摘されていたが、行政とのつきあいが社会的信用の担保だと考えるNPOは多かった。》(『NPOが自立する日』)

◎委託漬け
    《行政との協働は重要である。だが、先のような行政との委託関係は決して健全な姿とは言えないだろう。極端な赤字受注は、結局はNPO自身の首を絞めることになる。だが、日々の仕事に謀殺される中、この状態に容易に気づかない。納得のゆかぬ条件でも委託契約を続けなければならなくなっているとすれば、それは下請け化の徴候である。先のアンケート、ヒアリング調査、さらに他機関の調査研究結果より下請け化の特徴を取り上げて列挙した。
    • 社会的な使命よりも雇用の確保、組織の存続がより重要に扱われるようになる
    • 新たなニーズの発見が減り、委託事業以外に新規事業を開拓しなくなる
    • 寄付や会費を集めなくなる
    • 資金源を過度に委託事業に求めるようになる
    • ボランティアが徐々に疎外されているか、辞めてゆく
    • ガバナンスが弱い
     実は、類似の現象がサッチャー政権時代の英国で起こっている。大規模な行財政改革が進められるなかで、NPOに対する補助金は委託に転換された。その結果、委託のパッチワークを続け、委託漬けになったNPOを輩出したという。この現象を英国では「委託文化」と呼んでいるが、日本でいうところの下請け化のことである。》(「NPOが下請け化から抜け出すために」)

◎下請け化とは何か
    《ここであらためて、下請け化とは何なのか問いかけてみたい。事例やヒアリングなどを通して、下請け化がもたらす影響や現象面をみてきたが、これらを単純化すると以下のように説明することができる。
     「行政の仕事(仕様)がそのまま委託先に依頼されるが、権限は行政側に維持されていること。そして、受託側は委託条件に不都合を感じても、受託することを優先するために、断ることができないこと。」
     つまり、行政は権限を握ったまま業務を外部にアウトソーシングし、それを受託する側は、委託条件に不満を感じていたとしてもそれを断ることができない状態にあることをいう。この説明に該当する委託関係を結んでいるNPOは多いのではないだろうか。しかし、この状態では、新たな公の担い手は誕生しない。》(『NPOが自立する日』)

◎下請け化が加速
    《一連の政策の中で、NPOは時には雇用の受皿、時には新たな公の担い手として位置付けられてきた。そして、NPO関係者は「民が担う公」という言葉に活気づけられた。
     しかし現実はどうか。市場化テスト法、指定管理者制度、構造改革特区などの一連の法制度はこれまで政府が担ってきた公共領域を民間が担うために制定されたとされる。だが、その詳細をみると法律の本質は行政業務を民間にアウトソーシングすることを可能にすることであって、基本的な責任と権限は発注者となる行政側にある。つまり大事なところは切り離されていないのである。
     行政が担ってきた公共領域は依然として維持されているのであり、真の意味での小さな政府の実現とは言えないのではないだろうか。さらに財政支出削減の圧力がかかるなか、より安価に委託する動機が発注側に現存する。このような状況下では、下請け化を加速する可能性が大きい。》(「NPOが下請け化から抜け出すために」)

◎NPOの行き着く先
    《この事例に登場するNPOの行き着く先はどうなるのか。活動と組織を維持するために委託事業を複数引き受け、委託のパッチワークで乗り切ることになるだろう。その間、自主事業は縮小され、会費、寄付、ボランティアなど当該NPOの社会的使命や活動主旨に賛同していた人びとから徐々に乖離していく。委託中心で、ボランティアも会費、寄付など市民からの支援もなく、自主事業が縮小され、職員は雇用された労働者という感覚をもちはじめる。多くの人は、「それって、NPO?」と言うだろう。私たちがイメージしたNPO像とは直感的に違うと思うからである。》(『NPOが自立する日』)

◇           ◇

 以上は、NPOの実態や問題点をズバリつくものです。
 多くのNPOが「委託漬け」に陥っており、「行政の下請化」が加速しているというのは、そのとおりだと思います。そのために、NPOの本来的な社会的使命よりも「組織の存続」が重要視されているのです。これは、千葉県内のNPOをみてもいえることです。もちろん例外もありますが、それは一部のようにみえます。
 ちなみに、NPO法人の認証数(2007年6月30日現在)は、全国が3万1855、うち千葉県は1204です。

(2007年8月)





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