三番瀬埋め立て計画中止を

環境県への行政転換の出発点に

岩 田 好 宏



トップページにもどります
「主張・報告」にもどります


●見直し案の評価をめぐって

 千葉県の東京湾三番瀬の埋め立て問題は、その自然のもつ意味を明確にした補足調査結果の公表に続き、千葉県行政当局による見直し案の提示によって、ようやくこの問題を考える出発点ができた。これまで計画変更を主張してきた各自然保護団体も、当局案に対する評価によって、それぞれの考え方を鮮明にせざるをえなくなった。
 行政当局は、埋め立て面積を見直し案で当初計画の7分の1に縮小し、これで三番瀬の自然は保全されるとしているが、埋め立てに反対する自然保護団体は、残っていた10分の1の干潟がさらに削られようとしていると危機感を強めている。このどちらが正しいか。それを判断するための基礎となるのは、千葉県の自然・環境の実態である。




●県民は、良質の自然環境を次々と失ってきた

 その実態とは、千葉県民はこれまで環境破壊に悩まされ、多くの良質の自然環境を失ってきた、ということである。川崎製鉄千葉工場からの排ガス・粉塵排出による周辺住民の健康障害はその代表的なものであった。環境庁が平成6年3月に発表した第4回自然環境保全基礎調査(植生調査)報告書によれば、自然度10と9の自然植生は、千葉県全面積の1.8%(全国38位)となり、逆に自然度1の市街地・造成地は11.3%(全国7位)となっている。県内の二次林や放置された耕地の多くは有害物を含む残土・産廃の処理と不法投棄の場所と化している。そして東京湾干潟の90%が失われた。
 心配なのは三番瀬だけではない。全国でも最大規模の干潟を有し、渡り鳥の飛来地として国際的に知られる小櫃川河口域の盤洲干潟も、近接地に高層ホテル建設の計画がもち上がり、実現すれば、渡り鳥への影響は深刻なものとなる。その小櫃川の上流域では、唯一残る七里川渓谷の自然環境と渓谷美がダム計画の再燃によって没する危機にある。
 これまで千葉県民がもっていた「千葉県は自然のゆたかな県」というイメージは、その実態とともに完全に崩壊した。こうした流れを止めて、千葉県民に良質な環境を提供することを目標とする環境県に向けての行政の転換が、今望まれる。
 が、行政当局は、これまで環境保全にまったく目を向けなかったわけではない。県内に各種の自然環境保全地域を指定して、しかるべき調査と保全管理を進めてきた。市原市大福山周辺の良質な自然環境を破壊の危機から守ったことは記憶に新しい。三番瀬の埋め立て計画の補足調査の実施も高く評価されている。良質の自然環境を荒廃させつつある竹笹林の拡大の実態調査にも取りかかっている。




●三番瀬埋め立ては環境に重大な影響を及ぼす

 再び三番瀬に戻る。それは、埋め立ての必要性が時代の推移とともになくなる一方で、同海域が環境として重要な意味をもっていることが、補足調査等によって明らかにされた。見直し案で埋め立て予定地になった猫実川河口付近でさえも、有機化合物を無機化するCOD浄化能力は他区域に比しても劣らないことが明らかにされている。その消失によって汚濁物は他の区域が引き受けることになる。また稚魚・幼魚の生育場所として重要な意味をもち、東京湾漁業全体に及ぼす影響は重大である。
 埋め立て工事に関係した環境破壊も見過ごすことができない。これまでされてきた近接域浅海の浚渫による埋め立て用土砂の採取は、浚渫域が青潮の発生源となるなど、漁業のみならず、付近の干潟・浅瀬の生息生物への影響は深刻なものとなる。従来の方法とは別の山砂の利用は、採取地域に別の環境破壊を発生させるし、残土利用は、有害物質の混入の危険性が予想される。さらに土砂運搬にあたっての水路利用は東京湾内に重大な混乱を招き、陸路では新たな交通渋滞を引き起こし、騒音・振動・粉塵等による沿道住民の健康障害を招く恐れも出てくる。




●市川市の親水公園造成は、既存埋立地の海浜化で可能

 市民の多くが望んでいると聞く市川市の親水公園の造成については、唯一耳を傾けなければならないことだろう。しかし、これもJR京葉線の市川塩浜駅周辺の遊休地の活用と他の既存埋立地を海浜化することにより、干潟浅瀬を埋め立てることなく造成可能である。
 その方法は、基本的には過去の自然な干潟を思いおこせば明らかになる。埋め立て以前の、東京湾奥部の干潟は、場所によってちがいがあったが、共通して大潮の満潮時の海岸線を基準にして考えると、海岸線から20m〜50mの範囲は、猫実川河口域に似た泥の多い地帯(泥質帯)になっており、それより沖に砂質の干潟が広がっていた(海水浴や潮干狩りで干潟を訪れた人が泥質帯に足を踏み入れるのをいやがったので、海の家をその泥質帯の先端につくり、海岸線から海の家までの間に桟橋を架設した。海の家からは、砂質の干潟に直接おりることができた)。したがって、猫実川河口域付近の既存の埋立地を海浜化しても、泥質帯が消失することなく、泥質帯と砂質帯の両方が形成されると予想できる。
 千葉県民は、三番瀬の自然を守ることによって、環境県への脱皮の足がかりにしよう。

(1999年7月) 




コアジサシ





このページの頭にもどります
「主張・報告」にもどります

トップページ | 概 要 | ニュース | 主張・報告 | 資 料 |
催し物 | 干潟を守る会 | 自然保護連合 | リンク集 |