人工干潟造成は

漁場回復や海の再生につながらない可能性が高い

〜WWFジャパンが市川市長に要請書を提出〜


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 東京湾の干潟と浅瀬「三番瀬」の埋め立て問題をめぐり、市川市の千葉光行市長が「猫実川河口の周辺はヘドロ化している」などとして「海の再生につながる埋め立てがあるはずだ」との考えを示したことについて、世界自然保護基金日本委員会(WWFジャパン、サポーター約4万人)は「環境保全は埋め立て以外の方法で検討すべきだ」とする要請書を、市川市長と44人の市議に郵送した。





WWF、東京湾三番瀬の干潟保全に関する要請書を市川市長に提出


 WWFジャパン(世界自然保護基金日本委員会、畠山向子会長)は、5月25日、「東京湾三番瀬の干潟の保全に関する要請」を千葉光行市川市長および44名の市議会議員宛に郵送しました。

 要請文は、「広報いちかわ NO.842」に掲載された、「猫実川河口の環境保全のために埋め立てが必要」との市長の発言を受けたもので、

  1. 人工干潟は自然干潟におよばない
  2. 造成の費用対効果は割に合わない
  3. 漁業回復や海の再生にはつながらない可能性が高い
  4. 猫実川河口域を保護して理境の保全と漁業の回復を図るべき

の各項について述べています。先日コスタリカで開催された第7回ラムサール条約締約国会議では、「潮間帯湿地の保全と賢明な利用の促進(干潟保全決議)」が採択され、干潟環境の保全は国際的な関心事になっています。

 WWFは、埋め立てによらない環境保全の方法を検討するよう、要請しています。








世自基日委発第99-112号
1999年5月25日

 市川市長 千葉光行 様

(財)世界自然保護基金日本委員会
WWF Japan
会長 畠 山 向 子


東京湾三番瀬の干潟の保全に関する要請

 拝啓、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。本会の活動につきましては、日頃よりご理解、ご協力をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて、東京湾三番瀬(市川二期地区・京葉港二期地区)の埋め立て計画につきましては、皆さま方のご努力もあり、縮小の方向で見直しが進められています。これは環境を保全するうえで歓迎されるべきことと言えます。しかし、一方では、まだ具体的な見直し案が出されていないことから、将来、干潟や海辺がどのような形態になるのか心配だという声も少なくありません。
 特に、「広報いちかわ No.842」 に、「市川二期地区の猫実川河口には、ヘドロが堆積しているので、海を再生し環境と共生するためには、埋め立てが必要」という主旨の貴職のご発言を掲載されてからは、当会へも「環境保全のための埋め立て」あるいは「人工的に干潟を造る」ことがほんとうにできるのだろうか、という質問が寄せられています。これにつきましては、本会としては、残念ながら、否定的な考えを持っていることをお伝えしなければなりません。それは、以下に述べる理由によるもので、本会も参加している「人工干潟実態調査委員会」の経験にもとづいています。


1.人工干潟は自然干潟におよばない

 これまで造成された人工干潟をみると、面積、地形、底質、生物の多様性、種数および現存量、水質浄化機能など、ほとんどすべての面で人工干潟は自然干潟におよばないことが分かっています。造成用砂泥の重さで地盤が沈下したり、台風時の波浪により砂地が流出することが起きています。そのため、底生生物の量や鳥類の数は、造成直後に一時的に増加することがあっても、地盤沈下や砂泥の流出、大雨こよる淡水流入などがある場合には大きく減少してしまい、不安定であることが知られています。


2.造成の費用対効果は割に合わない

 また、人工干潟の造成には、面積30ha前後のものでも、総事業費として数十億円から数千万円が必要で、その後のメンテナンスにも年間数千万円が必要です。現存する干潟を埋め立て、一方で、莫大な費用がかかる人工干潟を造成することは、費用対効果からみると割の合わないものであることは明らかです。面積を狭くすれば少しは安上がりになるかも知れませんが、干潟としての構造と機能は十分ではなく、かえって無駄遣いになると思われます。


3.漁場回復や海の再生にはつながらない可能性が高い

 以上のことから、猫実川河口域を埋め立てる、あるいは人工干潟を造成することでは、干潟や海の環境改善にはならないし、ノリやアサリの漁場の回復にはつながらない可能性が高いと思われます。 むしろ、多量の有機物を底生生物が分解して浄化する場を失い、魚類の食物となるエビ類などの生息条件も悪化することから、影響は三番瀬全体におよび、現在よりも、干潟および浅海域としての環境が悪化し機能が低下する心配があります。猫実川河口域の埋め立ては、海や漁場の再生の妨げになる可能性があります。


4.猫実川河口域を残して環境の保全と漁場の回復を図るべき

 千葉県による「補足調査」の結果では、三番瀬は底質環境の特性により5つの水域に区分され、変化に富んだ環境条件を有していることが大きな特徴であるとされています。最も浅い部分である猫実川河口域は、そのような特徴のある一連の水域のひとつであり、三番瀬の海域にとって欠くことのできない要素と考えられます。
 一方、同調査では、停滞性の強い猫実川河口域では、海藻類のアナアオサが多量に集積することがあり、底生生物等の生息を阻害する要因になる可能性があると指摘しています。おそらく、これが一般には「ヘドロやよごれ」に見えるものと思われます。浅瀬域の自然現象のひとつですが、甚だしいようであれば、水流が停滞しがちでアナアオサが多量に蓄積する原因を調査し、海や漁場の再生を妨げない適切な方法で対処すべきであると思います。埋め立てや人工干潟の造成ではない方法で、猫実川河口域の環境保全を図るべきです。なお、堤防の形を今のような垂直なものではなく、緩やかな傾斜で人々が水辺に親しめる構造にすることには賛成です。これは埋め立てをしなくてもできることです。

 以上に述べた理由により、貴職におかれましても、猫実川河口域の干潟と海辺の保全につきましては、埋め立てによらない方法をご検討いただけるよう、要請致したいと思います。
 今月5月10日から18日まで、中米コスタリカで開催された第7回ラムサール条約締約国会議(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)では、「潮間湿地の保全と賢明な利用の促進に関する決議」(干潟保全決議)が採択されています。これは、干潟や藻場などの潮間帯湿地が、特に漁業、生物多様性、海岸保全、レクリェーション、教育、水質、などに関して重要な社会的、経済的、環境的価値を持っていることから、ラムサール条約の登録湿地に指定し、積極的に保全しよう、というものです。干潟の保全は環境問題として国際的な関心事になっています。
 ご高配のほど、よろしくお願いいたします。

敬具





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