「諫早」を教訓に干潟の賢い利用を

〜1999年4月14日付け日本経済新聞の社説〜




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 2年前の今日4月14日、干拓のために諫早湾の奥に設けられた潮受け堤防が完全に閉め切られて、約3500ヘクタールにも及ぶ干潟が消滅した。ムツゴロウなど干潟の生物や生態系を惜しむ声は、やがて、埋め立て・干拓を安直に続けてきた日本型公共事業への厳しい批判へと広がった。
 その流れを受けて、干潟を埋め立てる大型公共事業の計画見直しや撤回が相次いでいる。名古屋市は藤前干潟をごみの処分場として埋め立てる計画を変更して、代替地を探すことを決めた。そして、東京湾の最奥部に残る干潟、三番瀬の埋め立てについても、最近になって推進役の千葉県企業庁が計画の見直しを示唆している。

 三番瀬は市川市と船橋市の前海、江戸川放水路の河口部に広がる約1200ヘクタールの浅海域である。明治以降の開発で9割の浅瀬や干潟が埋まり、人工的な岸が続く東京湾で、最後に残った貴重な干潟である。そこを埋め立てようという計画(京葉港2期、市川2期)を千葉県が立てたのは1963年のことだ。石油ショックで一時期計画は消えかけたがバブル経済とともに県は計画の再開を発表、以来、環境保護か開発かという論争が続いてきた。
 埋め立て計画の柱である住宅団地や大型港湾施設の需要は当初の見込みをはるかに下回り、目玉となる第二湾岸道路の建設も、建設省は埋め立てを前提には考えていないとしている。三番瀬の埋め立てによる開発は、計画の必要性の面からも見直しを迫られている。
 開発行政にとって、干潟はいつも絶好のターゲットだった。埋め立てが簡単なので、低コストで新たな土地が手に入る。灰色で不毛の海域を価値ある土地に変える創造的な仕事、という意識すらあったかもしれない。計画の見直しでは、こうした行政の姿勢もまな板の上にのせて再点検してほしい。

 干潟は豊かな海である。どろ色で汚れているようだが、1メートル四方に1キロものアサリがすむ三番瀬は、同じ東京湾内でも水深の深い海域より透明度が高い。濁りの原因であるプランクトンを貝類が猛烈な勢いで食べるからだ。きれいで豊かで、魚や甲殻類など海の生き物のゆりかごでもある干潟を、ただ保全するだけでなく、上手に活用する手立てはないものか。湿地の保全に関する国際条約、ラムサール条約が提唱するワイズユース(賢い利用)を考えたい。


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