環境調整検討委員会委員に対し

  三番瀬埋め立て計画案の審議に関する要請書

    〜県内の自然保護5団体〜




トップページにもどります
「ニュース」にもどります


 三番瀬埋め立て計画案は現在、環境調整検討委員会で審議中です。
 ホームページで公開されている過去5回(第24回〜28回委員会)の審議内容をみると、事業者(県)は委員の質問や疑問などに納得ある回答をしていない点がかなり見受けられます。また、審議自体もまったく不十分です。
 そこで、県内の5つの自然保護団体が10月31日、検討委員会の委員にたいして、検討をもっと深めてもらうことなどを要請しました。
 要請書の内容は以下のとおりです。


 

要 請 書



2000年10月31日
環境調整検討委員会
  委員長  白鳥孝治 様
  各    委    員 様


千葉の干潟を守る会
三番瀬を守る署名ネットワーク
三番瀬を守る会
市川緑の市民フォーラム
千葉県自然保護連合


三番瀬埋め立て計画案の審議に関する要請書

 日ごろ、千葉県の環境保全に関してご尽力いただいていることに感謝申し上げます。
 さて、環境調整検討委員会では現在、三番瀬埋め立て計画の見直し案について審議されているところですが、公開されている過去5回(第24〜28回委員会)の議事録を読ませていただいたところ、委員の質問や疑問などに県が納得ある回答をしていない点などがかなり見受けられます。また、審議が不十分と思われる点もあります。
 つきましては、下記の点について、さらに検討を深めてくださるようお願いします。
 貴委員会による審議は、三番瀬のみならず、全国の干潟・浅瀬の保全、ひいては自治体の環境行政に重大な影響を与えると思われますので、諸問題を多面的、かつ慎重に審議してくださるようよろしくお願いします。

1.下水道終末処理場について

(1)現都市計画決定地での建設に努力すべき
 第一処理場用地として都市計画決定されている地区について、私たちが地権者に話を聞いたところ、次のように語ってくれました。
 「われわれの土地を下水処理場用地として都市計画決定したままにしているので、地権者はみんな困っている。建物が建てられないなどいろいろと規制されているからだ。そこで、県に対して、買収するか、都市計画決定を取り消すか、どちらかを早く決めてくれと要望しているが、県はうんともすんとも答えず、なにもしない。まさにヘビの生殺しだ」。
 このように、計画当初は建設に反対していた地権者も、いまは考え方が大きく変化しています。したがって、どうしても処理場をつくるというのであれば、三番瀬ではなく、そこでの建設に努力すべきです。
 なお、現都市計画決定地の南側には「行徳富士」と呼ばれる残土の山ができていますが、北側半分(20ヘクタール)は更地同様になっており、これは三番瀬につくろうとしているのと同面積であることを申し添えます。

(2)防災上の問題
 三番瀬付近の地盤が軟弱なことはよく知られていて、そこに重量構築物を建設するのは“豆腐の上にモノを乗せるようなもの”と言われています。こうした軟弱地盤の埋め立て地に、重要なライフラインである下水処理場を造るのは防災上からも問題があると考えられますので、この点について検討してください。
 事例をあげますと、たとえば阪神・淡路大震災では、埋め立て地に建設された神戸市の下水処理場が液状化によって甚大な被害を受けました。また、鳥取県西部地震でも、埋め立て地に造成された竹内工業団地などが液状化で大被害を受けました。さらに、大阪湾を埋め立てて建設された関西国際空港では、地盤沈下が事業者の予測をはるかに超えて進行しており、深刻な問題になっています。

(3)三番瀬での建設は財政をさらに圧迫
 同流域下水道計画は、目標年度まであと10年しかないのに、処理面積の進捗率はいまだに3割でしかありません。しかし、事業費は7割を超えています。このように、金がかかりすぎているために、関係自治体は一般会計から莫大な額を下水道会計に繰り出しており、悲鳴をあげています。
 こうした状態で三番瀬埋め立て地に処理場をつくれば、事業費がさらに膨らむことが確実です。そのため、関係自治体の下水道担当者からは「三番瀬に処理場をつくるのはやめてほしい」「進捗率を上げ、事業費を安くするために、内陸に小規模の処理場をつくってほしい」などという声がだされています。なお、こうした声は、県都市部の下水道関係者からもでています。

(4)新たな処理場建設は不必要という意見
 対象区域の人口の伸びは頭打ちになっています。江戸川左岸流域下水道計画は今回、計画人口や計画汚水量などが修正されましたが、それでも過大であると指摘されています。計画をさらに見直すとともに、既設第二処理場の技術革新や節水対策などを講ずれば、新たな大規模施設の新設は不要との意見が、下水道関係者からだされています。

(5)水循環再生の動きに逆行
 流域下水道計画は、金がかかりすぎて関係自治体の財政を大きく圧迫していることや、いつまでたっても完成しないこと、河川の水量減少をもたらしていることなどによって、全国いたるところでゆきづまっています。そのため、建設省は、従来の流域下水道中心を見直し、下水道の新しいあり方を検討中です。そこでは、「健全な水循環・良好な水環境」「環境への負荷抑制」などが検討されています。また、千葉県都市部も昨年3月、「ちば水環境下水道」という名の新しい下水道長期ビジョンを発表し、基本方針として、下水処理水の河川還元など「新たな水環境の創造」や、「災害時に被害を最小限に抑える都市構造・システムを有する安全なまちづくり」に貢献する下水道をめざす、としています。
 こうした「新しい下水道のあり方」に照らし合わせれば、広大な区域の下水を軟弱地盤の埋め立て地に建設する終末処理場に集めて処理し、東京湾に捨てるという方式は、見直すべきであると考えます。この点について、建設省や専門家などの意見などを聞き、検討してくださるようお願いします。


2.第二東京湾岸道路について

(1)地下化にすれば埋め立ては必要ない
 第二湾岸道の構造を高架式にした場合、渡り鳥への影響や景観、海への市民の親しみなどで重大な影響がでます。環境庁も、地下化の検討を求めています。
 そこで、県は、「地下化も検討したい」としていますが、もし地下化にするのならば埋め立ては必要ありません。なぜなら、三番瀬の前面部分に海底トンネルをつくればいいからです。
 この点を県の土木技術者に聞いたところ、「東京湾アクアラインの経験からしても、海底トンネルをつくり、東京外郭環状道路を海底で接続させることは不可能ではない」と語ってくれました。
 このように、地下化にすれば埋め立ては必要でなくなりますので、この点についての検討をひきつづき深めてくださるようお願いします。

(2)第二湾岸道の必要性に疑問
 私たちは、第二湾岸道そのものの必要性について疑問をもっています。たとえば、第二湾岸道の建設は「途中のパイプだけを太くするおきまりの途中改善策」であり、合流か所や市街地などの渋滞は解消できません。他方で、大気汚染に悩まされている船橋・市川・浦安地域の環境をいっそう悪化させることが予想されます。
 しかし、議事録を読むと、こうした必要性について、県は委員の質問に明確に答えていません。この点についても、さらに十分に検討されるようお願いします。

(3)鉄道を含めた総合的な交通施策を検討すべき
 第25回検討委員会で、B委員はつぎのような疑問をだされていますが、これは非常に重要なことだと考えます。
 「それから、もっと根本的な問題だが、慢性的な交通渋滞に関して、道路ばかりが問題になっているが、交通需要と交通手段の対策ということで、道路だけでなくて、鉄道なども含めた総合的な交通施策が同じ土俵で検討されないものだろうかと非常に疑問に思う」
 こうした総合的な交通施策について、検討を深めてくださるようお願いします。


3.街づくり支援用地について

(1)遊休地を活用すべき
 県企業庁は、付近の埋め立て地(浦安市など)に大量の遊休地(売れ残り)をかかえています。本当に受け皿が必要というのであれば、これを利用すべきです。

(2)街づくりは市民参加が不可欠
 快適で安全な街づくりは、自然を破壊しては実現不可能です。また、埋め立ての是非も含め、幅広い市民の参加によって議論すべきです。
 なお、この点に関して、市民団体「市川緑の市民フォーラム」が昨年12月、「三番瀬の自然環境の保全と市川市臨海部のまちづくりについての市民提案」を発表し、県や市川市に提出しています。この市民提案をぜひ参考にしてくださるようお願いします。

(3)「街づくり支援用地」は地元の発想ではない
 「(街づくり支援用地は)市が優先的に要望したものでない」(市川市幹部の話)と毎日新聞(1999年6月13日)が書いているように、経過をみれば、この用地確保は、埋め立ての口実であることが明白です。
 実際に、私たちが市川市の担当職員に聞いたところ、この用地計画は「県が一方的に打ち出したもの」との答えでした。

(4)企業の「移転希望」はあてにならない
 企業庁は、街づくり支援用地の必要性の根拠として、事業所(企業)のアンケート結果をあげています。この点については、たとえば第26回の検討委員会でB委員が、「600余りにアンケートを取って、60余りが手を挙げたということが、どういう意味があるか。ほとんど数の上のことだけであって、中身がよくわからない。これをもって多くの人たちが用地を必要としているという根拠にはならないのではないか」と疑問をだしていますが、まったく同感です。
 こうした企業の希望がまったくあてにならないということは、過去の事例が示しています。たとえば、企業庁が建設した房総臨海工業用水道は、アンケートなどで多くの臨海部大企業が強く要望していたというので約1700億円を投じてつくったにもかかわらず、当の大企業が「水はいらない」と言いだしたために、まったくの過剰設備となり、大赤字となっています。また、アンケートなどで進出希望があるということで、県内各地に工業団地や研究所用地がいくつもつくられていますが、実際には企業が進出せず、空き地だらけという団地がたくさんあります。富津工業団地や「かずさアカデミアパーク」などがそうです。


4.人工海浜について

(1)自然の浅瀬等を埋め立てて人工海浜を造るのは問題
 補足調査で明らかにされたように、三番瀬の自然環境は全体としてバランスが保たれており、市川二期地区(猫実川河口域)も三番瀬の自然環境保全や東京湾の水質浄化、漁業資源などにとって重要な海域となっています。
 そんな重要な浅瀬を埋め立て、その地先に人工海浜をつくるのは、たいへんな自然破壊であり、時代遅れといわざるをえません。

(2)人工海浜は生き物の生息量が少なく、維持費も莫大
 県企業庁がつくった人工海浜「幕張の浜」は、底生生物があまり生息せず、他方で維持管理費は莫大です。全長2695メートルのうち約6割は、浸食がはげしいため立ち入り禁止になっています。残る4割の部分を昨年まで海水浴場として一般開放していましたが、維持費が莫大なために、今年はついに海水浴を禁止にしました。
 このように、人工海浜(干潟)は、生物の現存量・多様性、鳥類への餌生物供給能力、水質浄化能力、維持費など、すべての面で自然の干潟におよばず、成功例もありません。
 この点について、さらに検討してくださるようお願いします。

(3)「船橋海浜公園前は県が造成した人工海浜」は事実と相違
 県は、広報紙などで「船橋海浜公園前は県が造成した人工海浜であり、十分な実績となっている」と言っていますが、これは事実と違います。
 県は1970年代、埋め立て地先(現在の船橋海浜公園前)の干潟を浚渫(しゅんせつ)し、船橋航路の「分岐航路」として利用しました。ところが、深い航路に立つ波の力は激しく、前面の砂を流して航路を埋めてしまうため、航路をくり返し浚渫しなければなりませんでした。また、1974年の台風で、埋め立て地側の垂直護岸がいたるところで倒壊しました。自然の力にはかなわなかったのです。そのため、1981年、県はついに「分岐航路」を廃止し、ここを埋めもどしてしまいました。だから、ここは、「県が造成した人工海浜」ではなく、いちど航路として浚渫したところを埋めもどしたものです。
 重要なのは、その前面に天然の干潟が残っていたために底生生物が生息し、シギやチドリなどの水鳥が飛来したり潮干狩りも楽しめるようになったことです。といっても、ここは、前面の天然の三番瀬と比べると、生物の種類数や生息量は貧弱です。

(4)塩浜前面の養貝場計画は大失敗
 企業庁は、塩浜前面の養貝場跡地について、「塩浜の前面は、漁組が潮干狩り場として人工的に土を持ってきてつくったところであり、これは完全に人工干潟である」(第28回検討委員会)と述べています。これは、事実とまったく違っています。
漁協が他から土をもってきて潮干狩り場にしようとしたことは事実ですが、結果は大失敗におわっています。土が三番瀬に適応しなかったために、稚貝を他から大量にもってきてもアサリはまったく育たず、壊滅状態になりました。その結果、養貝場計画はとん挫してしまい、投資した莫大な金がムダになりました。それだけでなく、人工的に盛り土したために、潮の流れがかわり、塩浜地区の他の場所にも悪影響をあたえました。
 同養貝場計画をめぐってはこうした経過があります。これは、人工海浜造成計画の技術的問題とも深くかかわりますので、調査してくださるようお願いします。

(5)「パブリックアクセス」は埋め立てなくても可能
企業庁は、「パブリックアクセスを実現するために人工海浜を造る」と言っています。しかし、市民が海にふれあえるようにするためには、なにも埋め立てて人工海浜をつくる必要はありません。
 いま、塩浜地区はハゼ釣りやカニ釣りのメッカとなっています。たとえば直立護岸の一部をけずって親水護岸にするなどの改善策を講じれば、埋め立てなくても「パブリックアクセス」は十分可能です。


5.対費用効果について
 埋め立ての必要性を検討する場合は、対費用効果も考慮に入れるべきと考えます。埋め立てに要する費用や大切な自然をつぶすことなどと、埋め立ての効果を比べることが非常に重要だと思うからです。
 当初計画の総事業費は約1兆5000億円とされていました。しかし、見直し計画案については、いったいどれくらい費用がかかるのかがいっさい明らかにされていません。その理由について、「県民からの強い批判を恐れているから」ということを関係者から聞いています。しかし、これは姑息な手段だといわざるとえません。
 必要性を論議する場合、おおよその事業費を明らかにすることは不可欠と考えますので、この点について事業者から示させると同時に、対費用効果を検討してくださるよう切にお願いします。


6.その他

(1)船橋側埋め立て計画についても検討を
 過去5回の議事録を拝見したかぎりでは、船橋側の埋め立てについては論議されていません。  船橋側の埋め立ても、三番瀬の自然環境などに与える影響は大きいものがあります。また、大型船が年に0〜2隻しか入港しない状況では、大型船が着岸できる埠頭の建設は必要なく、税金のムダつかいです。埠頭は余っているので、いまある企業専用埠頭をうまく使えばよいのです。
 つきましては、こうした点についても検討してくださるようお願いします。

(2)江戸川河口堰について
 建設省関東地方局江戸川工事事務所は、市川市の江戸川河口に設置されている「行徳可動堰」を行徳橋とともに上流約170メートル地点に移し、大規模なものに改築することを計画しています。
 新しい河口堰は大雨時に毎秒7000立方メートルもの淡水を放流する計画です。それも、現在は、大雨時に旧江戸川と江戸川放水路の両方に放水していますが、改築後はすべて江戸川放水路に放水することになっています。
 たとえば1998年9月の台風5号の時には、河口堰から毎秒2000立方メートルに満たない放水しか行われなかったにもかかわらず、三番瀬では大量のアサリ、シオフキなどの貝類が死滅しました。河口堰が改築され、毎秒7000立方メートルもの淡水が放流されれば、三番瀬で生息しているアサリなどが壊滅する恐れがあります。
 このため、県内の自然保護団体は、絶滅が心配されている生物に配慮が不十分なことや、三番瀬に与える影響も大きいとして、計画の見直しを求めています。
 三番瀬の自然環境に重大な影響を与えることが危惧されるこの可動堰改築についても、検討してくださるようお願いします。

(3)関係部局や専門家の意見などを独自に聞き、多面的に検討を
三番瀬にかかわる下水道や環境、街づくりなどの問題をすべて企業庁が主導して検討・計画していますが、これは大きな問題があると考えます。
 たとえば、県の都市部は昨年3月、前述のように「ちば水環境下水道」という名の新しい下水道長期ビジョンを発表し、下水処理水の河川還元など「新たな水環境の創造」などをうちだしました。ところが、大規模な下水処理場を埋め立て地に建設しようとする三番瀬埋め立て計画は、下水道計画を旧態依然とするものであり、これが下水道の新長期ビジョンと矛盾することは明らかです。
 実は、三番瀬埋め立て地に処理場を建設することについては、「水循環下水道の構築」に方向転換しようとする建設省や県都市部と、三番瀬埋め立てを担当している県企業庁との間で、かなりのやりとりがあったといわれています。しかし、下水処理場の建設がなくなれば埋め立ての名目がくずれることから、処理場建設を強引に存続させたといわれています。
この点については、下水道担当者の間でかなり強い不満や批判がだされています。もちろん、下水道計画課長などは、表向きはそうしたことは絶対に言いません。
 また、三番瀬の埋め立ては東京湾の漁業資源に重大な影響を与えるにもかかわらず、水産部がほとんど関わっていないことは大きな問題だと思います。
 さらに、たとえば幕張新都心計画は、街づくりを担当する都市部ではなく、土木工事を得意とする企業庁が進めているため、街づくりとしては失敗といわれています。同新都心は、日曜日や夜は人がほとんどいなくなり、“ゴーストタウン”と化しているからです。
 また、過去の京葉臨海工業開発をみても、進出企業は素材産業(石油、鉄鋼など)が大部分であり、産業政策としては失敗だったといわれています。その一つの原因は、開発を企業庁主導で進め、商工労働部などがかかわってこなかったからです。
こうしたことから、三番瀬埋め立て計画は、環境はもちろんのこと、下水道や漁業、街づくりなどとも密接にかかわる問題ですので、関係する部局や専門家の意見などを貴委員会として独自に聞き、多面的に検討してくださるようお願いします。





★環境調整検討委員会の議事概要

★関連ページ

このページの頭に戻ります
前ページに戻ります

トップページ | 概 要 | ニュース | 主張・報告 | 資 料 |
自然保護連合 | リンク集 |