海はだれのものか?

〜三番瀬を守るシンポジウムを開催〜

写真撮影・岩田孝昭



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 三番瀬の埋め立てに反対している市民団体は2002年7月22日、「海はだれのものか」とテーマにしたシンポジウムを船橋市中央公民館で開きました。三番瀬を守るシンポジウム実行委員会が主催したもので、参加者は170人。日本湿地ネットワーク、日本自然保護協会、世界自然保護基金日本委員会の3団体が後援したほか、45の市民・環境保護団体が協力するなど、幅広い支持のもとで開催されました。
 シンポではまず、熊本一規・明治学院大学教授が「公有水面埋め立ての諸問題」というテーマで講演。熊本教授は、“海はだれのものか”をめぐる論争や学説などを紹介したうえで、「海面は公共用水面であり、だれもが共同で使うのが本来のかたち」と指摘しました。また、「埋め立て免許は“許可使用”であり、漁業を営む関係地区漁民の方が埋め立て免許より権利が強い」「埋め立てようとする場合は、漁業協同組合ではなく、損害を直接受ける一人ひとりの漁民の同意が必要になる」などと述べました。
 つづいて、神奈川県水産総合研究所の工藤孝浩主任研究員が「東京湾の魚と三番瀬」というテーマで講演。工藤氏は、「イシガレイやスズキ、クロダイなど湾内で産卵した魚は、成長期に干潟や浅瀬にすみつく」「三番瀬は産卵・ふ化した稚魚たちの成長の場であり、三番瀬をつぶすことは東京湾漁業全体の問題だ」と指摘しました。
 「三番瀬を守る署名ネットワーク」の事務局をしている竹内壮一・千葉商科大学教授は、「第二東京湾岸道路計画の問題点」について講演。竹内氏は、「旧京葉港2期計画は物流地点づくりをめざしたものであり、その物流基地計画を支える柱が第二湾岸道であった。この計画が破棄された以上、第二湾岸道路は不要になった」「第二湾岸道はまだ構想段階であり、計画路線にはなっていない。また、東京外郭環状道路ができなければ実現がむずかしいなど、まったく熟していない。こうした熟度の低いものを前提に埋め立て計画をつくるのはおかしい」などと語りました。
 つづいて、東京の水を考える会の和波一夫氏が「流域下水道の問題点」というテーマで講演。和波氏は、三番瀬を埋め立てて流域下水道処理場をつくるという計画について、この計画は、処理人口、処理水量とも過大に見積もっていると指摘したうえで、現在稼働している第二処理場で将来的に十分処理できることを実際の数値を示して明らかにしました。
 講演の最後は、三番瀬公金違法支出訴訟弁護団の田久保公規弁護士が同訴訟の内容などについて講演。田久保氏は、訴訟の意義について、(1)“はじめに埋め立てありき”とか“金を渡したから漁業権を放棄しなければならない”というような、県の開発優先のやり方を改めさせる。(2)金融機関から借りた金の利息を県が肩代わりするという、公費の無駄づかいをやめさせる。(3)貴重な三番瀬を守る−−の3点を強調しました。
 講演のあと、会場から質問や意見が活発に出され、講演者が答えました。
 最後に、参加者全員でアピールを採択しました。


 

   シンポジウムの概要
●日 時:2000年7月22日(土) 13:30〜18:00 ●会 場:船橋中央公民館(千葉県船橋市)5階第3・4会議室 ●内 容:   経過報告:「三番瀬」をめぐる経過………田久保晴孝氏(三番瀬を守る会代表)   基調講演:公有水面埋め立ての諸問題 〜海はだれのものか〜                 …………………熊本一規氏(明治学院大学教授)   講  演:東京湾の魚と三番瀬…………工藤孝浩氏(神奈川県水産総合研究所)         第二東京湾岸道路計画の問題点……竹内壮一氏(千葉商科大学教授)         流域下水道の問題点………………和波一夫氏(東京の水を考える会)         三番瀬埋め立てにかかわる公金違法支出訴訟                …… 田久保公規氏(三番瀬公金違法支出訴訟弁護団) ●主 催:三番瀬を守るシンポジウム実行委員会(実行委員長:牛野くみ子) ●後 援:日本湿地ネットワーク、日本自然保護協会、世界自然保護基金日本委員会 ●協力団体:千葉の干潟を守る会、市川緑の市民フォーラム、三番瀬を守る会、千葉       県野鳥の会、千葉県自然保護連合、三番瀬を守る署名ネットワーク、野       鳥の会“三番瀬”グループ、住みよい明るい街づくりの会、市原のオオ       タカと里山を守る会、市原トンボ池の会、追原を歩く会、環境問題市原       連絡会、千葉・市原丘陵開発と環境を考える連絡会、開発問題研究会、       公共事業と環境を考える会、柏勤労者つりの会、しのばず自然観察会、       自然通信社、江戸川の自然環境を考える会、江戸川自然観察クラブ、真 間川の桜並木を守る市民の会、盤洲干潟を守る会、いますぐ水門ばあけ       ん会、東京勤労者つり団体連合会、東京湾海洋研究会、高尾山の自然を       まもる市民の会、海をつくる会、三番瀬ハゼを守る会、行徳野鳥観察舎       友の会、外環反対連絡会、Like a Bird 三番瀬、北限のトビハゼを守る       会、ちば環境情報センター、市川の空気を調べる会、市川のみちを考え       る会、小櫃川の水を守る会、小櫃川源流域の自然を守り育む連絡会、プ       ロジェクトとけ、諫早干潟緊急救済東京事務所、隅田川市民交流実行委       員会、いたばし野鳥クラブ、CIVIC-ACTION CHIBA、東京湾の浅海干潟に       親しむ会、東京湾・十六万坪の自然を守る会、江戸前の海十六万坪(有       明)を守る会                     (45団体)   ※ それぞれの団体の紹介は後援・協力団体の紹介をご覧ください。







シンポジウム実行委員長の牛野くみ子さんが開会のあいさつ。牛野さんは、あいさつのなかで、前日(21日)に逝去された日本湿地ネットワーク代表の山下弘文さん(諫早干潟緊急救済本部代表)と、2日前(20日)に逝去された千葉県企業庁臨海建設課長(三番瀬埋め立て計画の担当課長)の佐藤健さんに対し、謹んで哀悼の意を表した。








明治学院大学の熊本一規教授。熊本さんは、「海面は、国民みんなの共同使用に供されるべきもの。それが埋め立てられれば私有地などになってしまい、排他的・閉鎖的な空間に変わってしまう」「漁協は埋め立てに同意したり補償をもらったりする権利はまったくない。権利があるのは関係地区の漁民だ」などと、これまでの公有水面埋め立ては大きな問題があることを指摘した。













神奈川県水産総合研究所の工藤孝浩さん。工藤さんは、「東京湾は三番瀬や盤洲干潟、横浜沖など、すべてが一体となっている。したがって、三番瀬の埋め立てによる影響は、三番瀬だけにとどまらず、東京湾全体におよぶ」「三番瀬は、魚にとって全体が重要な場所となっている。だから、三番瀬を今の状態でセットとして残さないと、魚にとっては困る」「神奈川では京浜臨海部の再編整備が大きな課題となっていて、その事業のひとつとして海岸の一部を自然にもどす事業を進めているが、なかなか困難をきわめている。だから、後でそんなことをするより、今ある自然の海を残すべきである」などと述べた。








東京の水を考える会の和波一夫さん。和波さんは、「千葉県は三番瀬埋め立て計画面積を740ヘクタールから101ヘクタールに縮小した際、下水道計画も、処理場用地を48ヘクタールから20ヘクタールに、一日最大処理能力を107.5万立方メートルから31万立方メートルに下方修正した。しかし、それでも過大である」「現在稼働中の第二処理場の能力や人口の伸びの鈍化、節水対策などを考慮すれば、三番瀬に新たな処理場をつくる必要はまったくない」などと指摘した。













今回のシンポジウムは、東京都や神奈川県の市民・環境保護団体も協力団体に加わってくれた。写真は、両都県の協力団体を代表して連帯のあいさつしてくれた「江戸前の海十六万坪(有明)を守る会」の安田進代表。








会場は170人の参加者で埋まった















ア ピ ー ル



 豊かな文化は豊かな自然環境の上に育まれます。自然からの恵みを受け取るための「知恵」は、その恩恵に感謝しながら「節度を持って生きる」という倫理観として、世代を越えて受け継がれてきました。私たちは、それを三番瀬の歴史に学ぶことができます。海は漁場であると同時に、文化のゆりかごでもあったのです。
 しかし、干潟の埋め立てによる乱開発は、漁業を衰退させただけでなく、千葉の風土の中で育まれてきた土着の文化をも断絶の危機にさらしています。中央集権的な体制のもとに画一化された文化は、当初のみずみずしさを失い、もはや新たな息吹は感じられません。表面上の繁栄とは裏腹に、「外なる自然」の破壊は、人間の「内なる自然」を破壊し、その創造力を奪ってしまったといっても過言ではありません。
 海や自然とか故郷(ふるさと)という、一見あたりまえのように見えるものでも、ただ与えられるものではなく、闘争によって勝ち取らなければならないことを20世紀の歴史は教えています。私たちのめざす三番瀬の保全と自然の回復は、21世紀の希望を勝ち取るための闘争であると確信して、運動を進めてまいりましょう。

 2000年7月22日

三番瀬を守るシンポジウム参加者一同




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