千葉県は藻場造成事業を断念
三番瀬を守る連絡会
埋め立てで傷ついた東京湾最奥部の干潟「三番瀬」を海草のアマモが再生させる可能性が出てきた。温室効果ガス対策の効果も期待でき、NPO法人と千葉県市川市などが連携して取り組みを進めている──。今年(2025年)10月30日の『朝日新聞』(千葉版)がこう報じた。
NPO法人「三番瀬フォーラム」は2003年からアマモの移植を始めた。しかし失敗つづきである。7月ごろまで順調に育っても、夏場にはアマモが消失してしまう。
千葉県も三番瀬漁場再生事業の一環としてアマモ移植(藻場造成)の事業にとりくんだ。だが移植したアマモは夏季にすべて枯死した。県の農林水産部水産局は、枯死の原因として透明度不足と高水温などをあげている。
結局、「現在の造成手法でアマモ場を維持するためには毎年移植が必要となり、効率的ではない」とし、県は藻場造成(アマモ移植)事業を断念した。
前述の『朝日新聞』の記事はこうした史実についてはふれていない。
以下は、2025年10月30日付『朝日新聞』の記事と、三番瀬でのアマモ移植(藻場造成)は困難と千葉県農林水産部水産局が発表した資料、そしてNPO法人「三番瀬環境市民センター」(三番瀬フォーラム)によるアマモ移植のとりくみを報じた2003年以降の新聞記事である。
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2025年10月30日付『朝日新聞』の記事 |
NPOや市川市など連携
埋め立てで傷ついた東京湾最奥部の干潟「三番瀬」を、海草のアマモが再生させる可能性が出てきた。温室効果ガス対策の効果も期待でき、NPO法人と千葉県市川市などが連携して取り組みを進めている。 (鈴木逸弘)
「潮で流されないように深めに植えました」
秋晴れの10月18日。水深1.5メートルほどの三番瀬の浅瀬で、NPO法人「三番瀬フォーラム」の清積庸介副理事長らが、潜水しながら手作業で海中にアマモの株を植えていた。市川漁協のほか、市川市臨海整備課の職員が船上から見守った。
三番瀬は東京湾最奥部の同県市川、船橋両市沖に広がる浅い海や干潟。かつてはより広大だったが、戦後に沿岸部が市街化、工業化し、港湾が整備される過程で埋め立てが進んだ。自然環境も損なわれたが、現在でも漁業やレジャーの場になっており、再生に向けた取り組みも進む。
同フォーラムは2023年秋、三番瀬の環境改善を目指し、同漁協などと連携してアマモの移植を始めた。
全国の沿岸の海底に自生する海草のアマモは、水中で花をつける種子植物。海の生き物の産卵場所になることから「海のゆりかご」と言われる。
昨秋も浅瀬の約20平方メートルに、アマモ300株を植えた。これが今春、1メートルほどに成長し、株数は7倍の約2100株に増えた。
「驚いたことに、アマモが育ったところで多くの稚魚や稚貝が確認できた。アマモの『ゆりかご』の役割を実感しました」。同フォーラムの安達宏之理事長によると、アサリの稚貝をはじめ、スズキの稚魚やコウイカの卵、カニなどが確認されたという。
ただ、近年は猛暑の影響もあり、7月ごろまで順調に育っていたアマモが夏場には消失してしまう。移植場所を変えるなどとしてこれを回避できるが今後の鍵になる。
これまでのモニタリングでは、移植したアマモは種を海中に放出していることが確認できた。安達理事長は「うまく種を分けることができればアマモが広がり、三番瀬の環境をかつてのように再生できる」と期待する。
市川漁協の沢田洋一さんも「アサリの稚貝は、海面を漂流したのちに海草にくっついて育つ。アマモを増やすことで、今では採れなくなったアサリの漁場が再生する可能性がある」と話す。
■温室効果ガス 吸収へ期待も
アマモ移植へのもう一つの期待は、温室効果ガスの新たな吸収源としての役割だ。アマモは光合成により二酸化炭素を吸収し、炭素として海底に蓄積する。「ブルーカーボン」と呼ばれる。
三番瀬フォーラムが始めたアマモ移植の効果を踏まえ、昨年度から市川市も事業に加わり、共同で定着状況や漁場再生の様子などを調べている。
臨海整備課の大川満司課長は「三番瀬の再生という意味もあるが、『カーボンニュートラル』の達成に効果があると考えている」。さらに、整備が進む同市塩浜の人工干潟についても「将来的にはアマモの移植で干潟再生か期待できるのではと、選択肢の一つとして考えている」と話す。
温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」は、政府が2050年の達成を目標にしている。市は環境省のモデル事業に応募するなど積極的に取り組んでいる。
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千葉県農林水産部水産局が発表した資料 |
《千葉県農林水産部水産局の発表》
平成21(2009)年6月11日
農林水産部水産局 水産課
農林水産部水産局 漁業資源課
(3)藻場造成(藻場の造成試験)
現在の三番瀬ではアマモの越夏は困難と推定されますが、藻場は魚介類の生息域等として期待されます。
これまでの調査では造成試験で移植したアマモは夏季に全て枯死する結果が得られ、その原因としては透明度不足、高水温等が考えられました。
そのため 現在の造成手法でアマモ場を維持するためには毎年移植が必要となり、効率的ではないと考えられます。
今後は、三番瀬と同様の厳しい環境下における藻場について、その成立要因等の情報収集を行い、藻場造成の可能性について検討していきます。
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三番瀬のアマモ移植に関する新聞記事(2003〜2007年) |
◆『朝日新聞』千葉版、2003年7月10日
魚介類が多く住んだ「かつての海」に近づけようと、三番瀬の再生に取り組むNPO法人「三番瀬環境市民センター」(安達宏之理事長)が、3月と4月に三番瀬で初めて行った海草のアマモの移植が成果を上げている。当初の5・5倍に達した移植場所もあり、NPOのメンバーは「想像以上にうまくいった。少しずつでもいいから今後も移植を続けたい」と喜んでいる。
アマモはNPOのメンバーらが富津市沖で採取し、三番瀬一帯の3漁協(行徳、南行徳、船橋市)の協力を得て3月に浦安市沖の2カ所で計100株、4月には船橋市沖に200株をそれぞれ移植した。いずれも深さ約40〜50センチの浅瀬に長さ約30〜40センチの苗を約20〜30センチ間隔で植えた。三番瀬では初めての試みだった。
安達理事長によると、4月中旬に調査した際は風と波が強い日が続き、3カ所とも株数が減ったが、6月下旬の調査では軒並み株数を増やし、特に浦安市沖の移植場所の片方で、4月中旬に34株だったのが187株にまでなったという。
海草のアマモは浅海域の底で茎を伸ばす。葉は緑色で細長く、長いものだと約1メートルに成長する。光合成を行うために海水の透明度が高いほど育ちが良い。リンや窒素など富栄養化につながる成分を吸収するため、海の浄化を助ける。三番瀬では、近隣で埋め立てが進んだ60年代後半から減少したとされる。
酸素の豊富な表面の海水が風で流され、底から酸素の少ない海水が上がってくる際、発生する「青潮」被害に三番瀬は毎年見舞われるが、それを防止するためにも酸素供給源のアマモは貴重な存在だ。すでに移植場所にあるアマモのまわりには、自生しているアサリの稚貝がびっしりついているという。
安達理事長は「移植は難しいと聞いていたので、本当にうれしい。多くの人に見てもらい、環境学習にも役立てたい」と話している。
◆『東京新聞』千葉版、2003年8月20日
NPO三番瀬、23日に成果発表会
東京湾最奥の浅瀬、干潟の三番瀬の再生に取り組む「三番瀬環境市民センター(NPO三番瀬)」(安達宏之理事長)が、三番瀬で生物の産卵場となる海草「アマモ」の増殖実験に成功した。23日午後1時から、JR京葉線市川塩浜駅南口の市川市三番瀬案内所で、実験成果の発表会を開く。 (小山松 滋)
広大な三番瀬にはかつて、アマモが群生して生き物の産卵や稚魚のすみかになったほか、酸素を供給したり、海を浄化したりする大事な役割を担っていた。
現在では、そのほとんどが見られなくなったことからNPO三番瀬は、アマモ復活に挑戦するため3月、「三番瀬アマモすくすくプロジェクト」をスタート。地元漁協の協力で、同22日に富津で採取したアマモを三番瀬の市川寄りと船橋寄りの各ポイントに分けて計300株移植した。
最近までの生育状況は上々で、株数が移植時に比べ500株ほどに広がり、種を付ける花枝(かし)も出るなど、当初目標以上の成果を挙げている。海中で揺れるアマモの根元にはアサリがびっしりと巻き付き、アミメハギなどが泳ぐなど“生物のゆりかご”としての藻場が復活途上であることが確認されたという。
三番瀬案内所では、海でのモニタリングと並行して、富津のアマモから採種するなど水槽実験も同時進行させ、三番瀬に2回種まきして成長を見守っている。
発表会では、成功を踏まえ、市民参加による再生を考える上で、アマモが群生する海の復活の重要さをアピールする。
◆『読売新聞』千葉版、2003年8月31日
NPOが富津から移植 行徳、船橋沖に300株 根元にアサリ繁殖
生物の宝庫と言われながら、環境の悪化が著しい東京湾奥の干潟・浅瀬「三番瀬」に、海を浄化し、生物のすみかとなるアマモ場を再生しようと、「NPO法人三番瀬環境市民センター」が今年3月に実験的に富津市から移植したアマモが順調に生育している。約1600ヘクタールの広大な海に植えた約300本の株。一部は課題とされた真夏も乗り越え、監事の小埜尾精一さんは「『海の草原復活』の夢に向け、大きな一歩」と手応えを感じている。
かつての三番瀬にはアマモ場など多くの藻場があった。しかし、埋め立てや水質悪化で著しく減少。漁船のスクリューに絡み付くため駆除対象にもなり、10年以上前にほぼ姿を消した。 「環境悪化をくい止めるには、藻場を復元し、酸素供給源を造成するしかない」。構想が浮上したのは1990年。アマモの生育条件、移植に必要な着底技術などの研究を重ね、ようやく移植に踏み切った。名付けて「三番瀬アマモすくすくプロジェクト」。
アマモは水深が浅すぎると波で流され、深すぎると枯れてしまう。このため、海底の起伏があり、波あたりを和らげられる行徳、船橋沖数百メートルの3か所を選定。大潮時の水深が5〜30センチと条件に変化も付けた。
3月、地元の漁師や子どもらの協力を得て、各地点(4平方メートル)に50〜200株を田植えのように植えたアマモは、わずか1か月で株が分かれ始めた。特に、他の2か所より潮通しが良い行徳北側(50株)の生育は順調で、8月28日の調査でも約290株が確認された。根元ではアサリがびっしりと育ち、周辺を泳ぐアミメハギの姿も。小さなアマモ場だが、確実に生物の楽園として息づいていた。アドバイザー役の研究者・森田健二氏は「この調子なら地下茎が定着し、来年も芽を出す可能性がある」と胸を膨らませる。
水温や、土中温度などのデータを元に、来年は面積を拡大して移植する考えだ。7月にオープンしたJR市川塩浜駅前の「三番瀬塩浜案内所」では、アマモの種から苗を育てる取り組みにも挑戦中。移植継続には地元の行徳、南行徳漁協の許可が再び必要だが、小埜尾さんは「アマモ場再生の必要性を理解して頂き、三番瀬全域の再生につなげたい」と意欲を見せている。
◆『読売新聞』千葉版、2003年12月23日
魚介類生息、海浄化に効果/アマモの種まきをするメンバー
東京湾・三番瀬のアマモの再生に取り組んでいるNPO法人「三番瀬環境市民センター」(安達宏之理事長)は22日、三番瀬に初めて海草のアマモの種をまいた。
アマモは、葉が細長く、浅海域に繁殖。光合成で酸素を放出するために魚介類の格好の生息場所となるほか、富栄養化の原因となる窒素、リン酸を吸収し、海の浄化に効果があることが実証されている。
センターは今年3月、富津市海岸に漂着したアマモの株を採取。行徳、南行徳、船橋市の三漁協の協力を得て市川、船橋両市沖の計三か所に50〜200株を移植した。3か所とも目標の種を取る段階まで生育し、市川市沖の「行徳北」では、移植した50株が450株以上に増えた。
そこで、今度は種からの繁殖に挑戦。波に流されやすいため、ペースト状のガラスの微粒子に混入してまく。事業のアドバイザーを務める自然再生事業会社員森田健一さん(46)が考案したもので、これだと安定的に着床し、発芽率は10%に達するという。
◆『毎日新聞』千葉版、2004年1月5日
市川のNPO
アマモ(イネ科)は、水深が浅く、水のよどまない程度の潮の流れが生育の条件。水生動物にとってアマモの繁殖する場所は、豊かな生態系が形作られるという。かつて、ナガモやモバタなどと呼ばれ、三番瀬周辺でも多く見られたが、近年、ほとんど姿を消した。専門家の一部は、アマモの減った原因として、工業化や埋め立てなどによる水質の悪化を挙げる。
アマモを三番瀬に植えることで水質が致命的に悪化していないことを証明しようと考えた同センターは昨年3月、富津市沖から地元漁協の許可を得て、アマモの苗計300株を採取。三番瀬のうち、船橋と行徳北、行徳南――水深など3カ所の条件の異なる地点を選んで苗を植えた。
船橋で植え付けたアマモは株数が激減したものの、ほかの2カ所では順調に生育。行徳北では、50株の苗が8月に300株以上まで増えた。
先月中旬には、富津市から、アマモの種が含まれた茎「花枝」1200本を譲り受け、海水に浸して熟成。得られた約1万5000粒の種を、波に流されないようジェル状の物体に混ぜ、「ふなばし三番瀬海浜公園」近くの浅瀬に埋めた。
同センターの町田恵美子副理事長(44)は「最初は『植えるだけムダ』と言われたアマモが、すくすく育っている。浜辺から歩いて行ける場所に種をまいたので、多くの市民に成長を見守ってほしい」と話している。【吉岡宏二】
◆『読売新聞』千葉版、2004年5月9日
NPO「人為的」
消失したアマモは昨年3月、富津沖から取り寄せた株約50本を移植した。移植後に、数は次々と増えて、約1600株までになった。長いものは約1.6メートルにも成長し、「アマモ場」を形成するまでになっていた。
4月5日のモニタリング調査では確認されたが、同26日のモニタリングで、すべてが消失していることが判明した。さらに移植場所を示すために、2メートル四方の角に立てていた長さ約3メートルのプラスチック製のサオも一緒になくなっていたという。
同センターは、行徳沖2か所、船橋沖1か所の計3か所で増殖させる計画を立て、計300株を移植してきた。今回消失したのは、このうちの1か所。残る2か所では一時は増殖し、一定の成長を見せたが、次々と姿を消しており、今回の消失ですべてが消えたことになる。
市民センターは、強風や高波、青潮でも消失する可能性があるとして、三番瀬の気象観測を行う海洋専門家にも確認したが、そのような気象状況はなかった。
安達理事長は「再生には利用者がルールを守ることが不可欠と考えていたが、それが現実となった。アマモへの市民の理解を深める活動の大切さも痛感した」と話している。
◆『朝日新聞』千葉版、2004年5月9日
船橋・市川市沖の三番瀬の、通称「沖の大洲」で育っていたアマモ約1600株がなくなっていたことが、NPO法人・三番瀬環境市民センターの調べでわかった。
昨年3月に、海の生き物のすみかであり、酸素を供給する働きのある藻場を再生する試みとして、富津沖から50株を移植したばかり。現場海域で際だった海の変化はなく、同NPOは何者かの心ない行為との見方を強くしている。
4月上旬までの調査では、アマモは順調に成長していた。下旬に現地に行って調べたら全部のアマモが消失し、目印に立ててあったプラスチック製の竹の囲いもすべてなくなっていた。
現場は潮が引けば水深25センチ前後、満ちれば2メートルほどの海域。この間、一気にアマモが消失し、囲いがなくなるような海域の環境変化はなかった。
このため、同NPOの安達宏之理事長は「原因ははっきりしないが、これまで流されなかった囲いもなくなっており、人為的なものだろう。ショッキングな事態で落胆している」という。
アマモは海草の一種。かつての三番瀬には各種海草の藻場があり、魚の産卵場所、稚魚のすみかになっていた。また、海水に酸素を供給する機能もあり、豊かな海の「揺りかご」の役割を果たしていた。
相次ぐ埋め立て、水質環境の悪化でほとんどなくなった藻場を復活しようと、同NPOが昨年3月に富津沖のアマモを採取し、三番瀬の3カ所に植えた。
2カ所は昨年夏までに流失したが、市川市行徳の南約2キロの三番瀬の縁辺部にある「沖の大洲」といわれる場所だけは2×2メートルの植え付け場所が2×3.5メートルに広がり、まばらだったアマモは密生化が進んで、株数は50倍以上に増えていた。
安達さんは「うまく育っていただけに残念だ。犯人捜しをする気はない。社会的理解を得ることが三番瀬再生の大事な柱であることを改めて認識した。アマモ再生の手がかりはつかんだ。これからも再生に積極的に取り組んでいく」と話している。
◆『東京新聞』千葉版、2004年10月31日
『NPO三番瀬』がアマモの種植えと苗移植
三番瀬で「海の草原」とも呼ばれるアマモ場の再生実験に取り組んでいる民間非営利団体「NPO三番瀬」(安達宏之理事長)が29日深夜、船橋市のふなばし三番瀬海浜公園沖で、アマモの種まきと苗の移植を行った。メンバーら約10人が、最干潮の午後11時半をはさみ、海中で約1時間半作業した。
アマモは海草の一種で、海底に根を張り細い葉は最長で4メートルに成長する。根の近くには底生生物が住み着き、稚魚の隠れ家にもなる。アマモが茂るアマモ場は酸素の供給源として、無酸素状態の海水が引き起こす青潮を抑制する効果も期待されている。
周囲を埋め立てられる前の三番瀬は、陸に近い場所がアマモ場で覆われていた。今はほんのわずかに残っているだけだという。
同団体は、昨年3月から「三番瀬アマモすくすくプロジェクト」を開始。市川市沖など四カ所で、地元漁協の了解を得て移植実験を行い、種からの発芽や苗の一定期間の育成に成功している。
今回は、沖合約300メートルの地点に、三番瀬で採取した種と富津市産の計3000粒を植え、富津市産の苗50本を移植した。干潮時の水深は約45センチで、この日の水温は18度。ドライスーツを着込んだメンバーらが、海底に約3センチの深さの穴を掘り手作業で種を植えた。
種は数週間で発芽、強い風や波にさらされなければ、年明けごろには30センチほどに育つという。水温が低くなる冬場も月に1回程度、モニタリングに訪れるという。
同団体の小埜尾精一さんは「これまでの実験で、何年間も定着させるための条件が分かりつつある。海の環境を良くするアマモは全国的に注目されており、三番瀬から苗などを供給できるようにしたい」と話していた。 (小川直人)
◆『日本経済新聞』2007年7月2日夕刊
〔環境SOS─原風景を復元〕(1)
江戸前を豊穣の海に
様々な生き物が暮らし多彩な表情を見せる日本の自然。だが人間活動などの代償として破壊のつめ跡があちこちに残る。古(いにしえ)の原風景を取り戻す取り組みが各地で始まった。
ここは東京湾の三番瀬(千葉県市川市沖)。広大な干潟の沖合に足が立つほどの浅瀬が続く。そこで緑の海草がたゆたう。
正体はアマモと呼ぶ長さ1メートルほどの海草だ。「この辺りは40年前までは一面に生えていた」と、特定非営利活動法人(NPO法人)である「三番瀬環境市民センター」の町田恵美子副理事長(48)は説明する。
アマモは東京湾の各地で見られたが、激減した。原因は海水の温度上昇と透明度の低下に加え、埋め立てで潮の流れが滞ったこと。魚介類のゆりかごだったアマモが姿を消すと海底は砂と泥だけになり、魚も貝も寄り付かなくなった。
町田さんたちは同県富津市の干潟からアマモの株を譲り受け、2003年に水温の低い場所を選んで移植した。翌年の調査では、4平方メートルにアマモが1600株まで増えたところもあった。
成長した葉にはウミウシが卵を産み付け、アサリの稚貝が流されないようにつかまるようになった。酸素の乏しい水が海面を覆う「青潮」が発生したときは、アマモの葉に付く酸素を求めて魚たちが避難してくる。漁業にプラスとなる面があるとみて、千葉県も株数調査を手助けしている。
失われた自然を元の姿に回復させるのは至難の業だ。それでも町田さんは「移植を続けながら次の世代に自分たちの取り組みを受け継ぐことにも力を入れていきたい」と語る。
豊穣(ほうじょう)だった江戸前の海。復活を目指して地道な活動が続く。
文 田中深一郎
写真 剣持常幸
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